【情報の檻/漆黒王、戦場に降りる】
【情報の檻】
ネザリア城・情報制御室――
膨大な魔導スクリーンが、空間に幾層にも投影されていた。
城の周囲、敵の配置、内部の罠と動線――
すべてが光の盤面に映し出され、ただの“情報”として並ぶ。
その中心に、ひとり。
「っと……はいっ、死亡確認っす♡」
じゅぴが椅子をくるくる回しながら、軽やかに指を弾いた。
一つの画面が赤く染まり、王国軍の中隊がマップ上から“削除”される。
「わ〜お。リィナ、やりすぎぃ♡ 影と一緒に進軍速度、規定の三倍超えてるっすよぉ」
「……ん〜でも、敵側もまだ耐えてるなぁ。
中央に魔導指揮塔と大結界隊か。ほんと、“戦争”って言葉だけは立派なんすよね〜」
スッと魔導スクロールを呼び出し、じゅぴは敵陣全体を俯瞰した。
その瞳に、いかなる“感情”も浮かばない。
あるのは、冷静な演算――と、少しの“遊び心”。
「じゃ、ゲーム開始♡」
次の瞬間、じゅぴの指が滑る。
スクリーンが変化し、敵の魔導結界が点滅しはじめる。
「弱点ね、ここ。補給部隊が一分遅れ、結界接続不全、隊長格が一人負傷中――
は〜い、じゃあここ狙って“影ぶちこみ”決定〜!」
「影くんたち、侵入ルート再構成。
左翼から迂回、崩して、後ろからバクっと♡」
スクリーンに“赤いルート”が描かれ、そこへ影部隊が自動展開されていく。
「ねぇ、せつな。もう“壊して”いいっすよね?」
「うち、まだまだ可愛く遊びたいんすけど、
この敵、“可愛がってくれる気”ないみたいなんで――」
「殺しましょ♡」
じゅぴがニコリと笑った瞬間、戦線の一角が音もなく崩れた。
情報による支配。
それが、じゅぴの戦場。
【漆黒王、戦場に降りる】
王国軍・前線――
リィナと影によって左翼が崩壊し、
じゅぴの演算によって中央の動線が切断された。
戦線はまだ崩れきってはいないが――
誰の目にも、“潮目”は変わっていた。
そして――
ゴウッッ……!
戦場の中央。誰も踏み入れていなかった空白地帯に、黒い魔力の奔流が炸裂した。
地面が抉れ、光が収束する。
そこに“現れた”のは――
漆黒。
全身を覆う漆黒の鎧。
金の装飾がわずかに輝き、片手に携えた大剣が、地面を軋ませる。
“王”だった。
その姿だけで、空気が止まり、兵士の鼓動が狂いはじめる。
「……あれが……」
「……まさか……っ」
敵兵がひとり、震える声で呟く。
「貴様が、“漆黒王”か……ッ!」
別の将官が、叫ぶように声を張った。
「バカめ……! わざわざ出てくるとは、命知らずがッ!!
全軍ッ! 突撃ッッ!! 殲滅せよォォ!!」
敵兵が一斉に動く。
槍、剣、魔法、罵声。
数百の刃が、戦場中央へと殺到する――!
――その瞬間。
ゴゥン――!
世界が揺れた。
空気が震え、大地が悲鳴を上げる。
漆黒の王――せつなは、ゆっくりと剣を横に構えただけ。
だが――
敵の前列が、音もなく消し飛んだ。
「え……?」
後列の兵が、声を漏らす。
だが、前にいた者は、誰もいない。
立っていた場所ごと、削り取られたように。
風もなかった。魔法の詠唱もない。
ただ、“存在しただけ”で――死んだ。
その静寂の中、漆黒の王が歩み始める。
一歩、また一歩。
まるで散歩でもするかのように。
敵兵は叫び、逃げ惑い、魔法を放つ。
だがそのすべてが、届かない。
触れる前に、砕ける。
刃が折れ、魔法が霧散し、盾が裂ける。
ただ、圧倒的な“支配”が、そこにはあった。
敵指揮官の前まで、歩み寄る。
その男は、もはや言葉も出せないまま、後退りをしていた。
だが、せつなは止まる。
そして、低く――静かに告げる。
『……貴様が、指揮官か』
その声に、地が震えた。
紅の一つ目が、すべてを見通していた。




