【街の門前】
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乾いた風が吹く大地の上、城壁の前に人々の列が伸びていた。
並ぶのは旅人、商人、傭兵、そしてその中に、ひとりの“少女”の姿があった。
灰色のフードを目深に被ったその少女――セリナ=アルメリア。
その正体は、せつなの命で送り込まれた“潜入ユニット”だった。
(……ふぅ。ここからが本番ね)
列に混じりながら、セリナは冷静に周囲を観察する。
門の前には武装した門番が二人。順番に訪問者の話を聞き、簡易的な身分確認を行っていた。
(入るだけでも審査がある……この世界、やはりゲームの頃とは少し違うわね)
彼女の目的は、街の構造、通貨、装備や魔法体系の現状など、かつての《Ark Chronicle》との違いを探ること。
だがその前に、まず“正面突破”しなければならなかった。
一歩、また一歩と列が進む。
その間にもセリナの脳内では、想定される全質問パターンに対する回答テンプレートが高速で展開されていく。
(身分はない。持ち物は制限済み。……こちらの世界の言語処理、発音、問題なし。
あとは、“演じきる”だけよ)
やがて、自分の番がやってきた。
「次の者、こちらへ」
呼ばれた声に応じ、セリナは静かに顔を上げる。
門番の男は、どこか優しげな雰囲気を纏った初老の騎士風。
敵意は感じられないが、だからといって油断はできない。
「旅人か。名を名乗れ。所属、目的、同行者の有無――答えられる範囲でいい」
セリナは一瞬だけ視線を伏せ、それから、微かに震えるような声を作った。
「……セリナ=アルメリア、です。……旅の途中で、家族を……盗賊に。みんな、殺されました……」
そう言って、フードの影に顔を隠す。
わざと喉を詰まらせるようにしながら、感情の欠片を滲ませる。
「……そっか。辛かったな……」
門番の男は、思いのほか優しい声でそう言った。
そして懐から紙の札を一枚取り出すと、それに何かを書き込んだ。
「とりあえずは一時的な入国許可を出す。身元がはっきりしない者の滞在は制限されるが……ギルドで冒険者登録をすれば、それが“身分証”になる。
無理にとは言わんが、身を守るには悪くない選択だぞ」
「……ありがとう、ございます」
小さく頭を下げるセリナ。だが、その内心では――
(……馬鹿な奴ね。だけど、助かるわ)
一切の感情を顔に出さず、セリナはそのまま紙の札を受け取った。
この“偽りの少女”に門番は気づくことなく、やがて列の外へと彼女を送り出した。
セリナは静かに歩き出す。
その足取りは、道に迷った少女のように見えて――実際は、完璧な任務遂行の第一歩だった。
セリナ、街へ潜入完了!
本格的な“仮面の演技”が始まりました。口調や所作ひとつひとつまで完璧に作り込まれた彼女の動き、いかがでしたか?