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【完結済】堕神ノ書 〜異界支配の始原〜  作者: せつな
第三章【静寂を裂く足音】
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【支配者の出陣/影の微笑】

【支配者の出陣】


ネザリア城・兵詰所――


外の光景を映し出す魔導スクリーンは、もはや隠すことなく“戦争”を告げていた。


敵軍、千を超える兵。

重装の魔導砲、魔術師部隊、そして“正義”を名乗る者たちの声。



兵たちは沈黙の中で、歯を食いしばるしかなかった。


そんな中、扉が開く。


漆黒のマントに身を包んだ少女――セリナが、無言で入ってくる。


(……この空気、やっぱり)


見慣れぬ軍装の者たち。けれど、ただの客ではない。

彼女の視線が、真正面に立つ一人の男――グレンに向く。


「……あんたたち、ここで待ってなさい」


その言葉に、一斉に視線が彼女に向けられる。


「……戦場に行くんじゃないのか?」


「行っても、足手まといになるだけよ」


言い切った声に、一瞬空気が凍った。


「この城の敵は、普通の軍隊じゃない。“影”が動く。魔導が刺さる。

罠と幻覚と、“あの方”の力で――吹き飛ばされるだけ」


「……そんなもの、俺たちはまだ……」


「知らないでしょ? だから、“黙って見てる”のが最善なの。

それが、“せつな様”からの配慮でもある」


その名に、グレンが目を細める。


(……“守られている”)


一兵として戦場に立ってきた彼が、そう感じてしまうこと自体が屈辱だった。

けれど、それが現実だった。


「……悔しいが、言っていることは正しい。俺たちが今、勝手に前に出ても……何もできない」


彼は拳を握った。


「だが……見ている。目に焼き付ける。

この“異界の戦い”を――俺たちは見届ける」


「……ふふ。せいぜい、見逃さないことね」


セリナが背を向ける。


「だって、ここから先は――“常識”じゃ測れないわよ?」


ネザリア城・門前――


漆黒の門が、重く開かれた。


その奥から、黒の影が溢れ出す。


影兵――漆黒の霧から生まれた異形の兵士たち。

顔なき刃、意思なき忠誠。全てが“せつな”に従い、敵を殺すために存在する。


リィナがその先頭に立つ。


「ねぇ、せつな。……出てもいいんだよねぇ?」


ちら、と見上げる眼差しは、甘く、蕩けるほどに殺意を帯びていた。


『……蹂躙しろ』


その一言に、リィナは笑みを浮かべる。


「はぁい♡」


影が揺れた。

音もなく、光もなく――“喰らうように”敵陣へと走り出す。


情報制御室――


じゅぴがスクリーンに指を滑らせながら、うきうきと魔導波を解析していた。


「は〜い、どこが弱いか全部バレバレっすよ〜♡

真ん中の第二陣、結界担当が遅れてるっすね〜? そこ、穴っすよ〜?」


「せつな、攻め口提示完了っす♡ 影ちゃんたち、どんどん殺っちゃいましょ〜!」


玉座の間――


せつながゆっくりと、剣を手に立ち上がる。


漆黒の大剣。その刃が、地を滑る音を立てる。


紅い一つ目が、スクリーン越しの敵を見据える。


その口が、静かに告げた。


『――我もいくか』


その言葉と共に、せつなが動いた。


黒が地を満たす。

刃が影を裂く。

王国の“正義”が――いま、呑み込まれてゆく。



【影の微笑】


ネザリア城・外郭――


門が静かに、地を這うような音を立てて開かれる。


そこから現れたのは――黒のメイド装束。


あまりにも異質。

あまりにも小さく、無防備にすら見える“少女”。


だがその背後には、顔なき影の群れ――

刃となり、殺意となる、漆黒の“異形”が控えていた。


その少女――リィナ=シュヴァルツは、ふわりと微笑んだ。


「ふふ……行ってくるね、せつな♡」


王国軍・前衛――


「……な、なんだあれ……?」


「子ども……か? いや、後ろ……なにかが……っ!」


「射て! 魔弾を放てッ!!」


叫びと共に魔法が放たれる。

火球、雷撃、魔導弾。


だが――当たらない。

いつの間にか、姿が消えていた。


「ッ、どこだ――」


その声を最後に、兵の一人の首が、音もなく落ちた。


「……ばいば〜い♪」


リィナの声が、耳元で囁かれる。

次の瞬間、腹から刃が突き出た。


「ひっ……ぎ、ぎゃああああ!!」


断末魔が連鎖する。

敵陣は、混乱ではなく“恐怖”に支配された。


「何者だッ、貴様は……!」


「ふふ、“せつなのメイド”だよ?」


一歩、歩くだけで――首が落ちる。


二歩、踏み込めば――影が喰らう。


兵士の一人が膝をつき、叫ぶ。


「悪魔だ……! あれは悪魔だッ!!」


「子どもじゃない……! 遊んでやがる……ッ!!」


リィナは楽しげに、微笑んでいた。


「ふふ、“遊んで”るんじゃないよ?」


「“お仕事”してるだけ♡」


短剣が閃くたび、命が落ちる。

影が跳ねるたび、兵が消える。


「ほら、“せつなの敵”は、ひとり残らず……片付けないとねぇ」


蕩けるような笑顔で、リィナは殺し続ける。


恐怖と混乱の渦に沈む王国軍前衛――


そこにはもはや、“戦い”など存在していなかった。

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