【応接室の対話2】
【応接室の対話】
応接室――
グレンが椅子に腰を下ろしたのを見て、じゅぴはにこにこと笑いながらお茶を注いだ。
「じゃ、まずはご挨拶がわりに一杯っす♡
毒は入ってないから安心していいっすよ? 今のとこはね」
グレンはその言葉にわずかに眉を動かしたが、カップを手に取る。
じゅぴはくるりと回ってソファに腰掛けると、両足をひょいと組みながら言った。
「さて、グレン隊長。さっそくだけど、ちょっと聞いてみたいっす。
……王国って、ほんとに“勝てる”って思ってるんすかね?」
「……それは、上層部の判断だ」
「ふーん? “判断”ねぇ……」
じゅぴはわざとらしく首をかしげてから、指を立てて数え始める。
「ネザリアの規模、位置、構造、戦力不明。
こっちが一切交戦してないのに、兵の一人が死亡。
帰された使者の報告を“政治的に都合が悪い”って理由で揉み消し。
……で、“王国の威信のために殲滅”?」
カップを口元に持っていき、わざとらしく溜めた後、甘い声で言った。
「――バッカじゃないっすか?」
グレンは言葉を選ばずにいた。
だが、じゅぴはその“間”さえも楽しんでいるようだった。
「“威信が傷つけられた”って、勝手に自分の誇りを踏みにじられた気になって、
“国家の正義”って名前つけて殴り返そうとしてるだけっすよ。
やられたからやり返す。何も考えず、ただの感情論」
「……確かに、その通りだとは思う。だが、だからといって国を捨てるわけにはいかない」
「うんうん、それ、わかるっす。
“国”そのものに忠誠があるんじゃなくて、“そこに生きる人”を見てるからでしょ?」
「……」
「でもね、隊長。上の人間ってのは、そういう感情とか現実とか、びっくりするくらい無視して動くんすよ」
じゅぴは軽く笑いながら、指で机の上をトンと叩く。
「“玉座”に座ってるとね、何も見えなくなる。
だからせつなは、ちゃんと“見たうえで決める”。
敵意を向けられたら応じる。“相応の報い”でね」
グレンはカップを置いた。
「……あなた方は、既に“滅ぼす”決意を?」
その問いに、じゅぴはニコリと笑って言う。
「違うっす。“滅ぼされる”って決めたのは、王国のほうっすよ?」
その笑みの奥には、底知れぬ冷たさがあった。
「こっちは“拒否した”。何も求めてない。
でも、そっちが勝手に恐れて、勝手に敵意を向けて、勝手に戦争を選んだ」
「なら、それに応える。それだけっす。ねぇ、せつな?」
沈黙の中で――
重く、低い声が、部屋を満たした。
『……そうだ。』
せつなが、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
『我は現に、貴様らを帰らせている。
対話の余地を残し、刃を交えることなく――
選ばせたはずだ。』
グレンは息を呑んだ。
せつなの声音は静かだった。だがその一言には、明確な事実の提示と、断絶された選択肢の終わりが込められていた。
『それでも、貴様らは我が城を“攻める”と決めた。』
『ならば、その結果は――自ら選び取ったものだ。』
応接室に、再び沈黙が落ちる。
だがその静寂の中には、国家という看板の下で積み重ねられた、
愚かさと、取り返しのつかない選択の重みが、はっきりと漂っていた。




