表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済】堕神ノ書 〜異界支配の始原〜  作者: せつな
第三章【静寂を裂く足音】
40/159

【玉座と対峙】

【玉座と対峙】


漆黒の謁見の間。

重く静寂が支配する空間の中、調査隊の隊長は玉座を見上げたまま、動けずにいた。


その視線の先――


王のような気高さと、獣のような殺気を同時に纏った“存在”が、玉座に座していた。


一言で形容するなら、“異質”。


気を抜けば、そのまま意識ごと呑まれそうな圧に、兵たちは自然と膝を折っていた。


(……これが、ただの“未確認の拠点”だと? ふざけるな……!)


隊長は喉を鳴らし、気合で一歩を踏み出す。


「……おそれながら、我々は王都より派遣された正規調査隊。 突然の構造物出現により、国家として調査の必要があると判断した次第です。 不躾を承知で参上しましたが――このような形式で対話の場を設けていただいたこと、深く感謝いたします」


その言葉に、場の空気がほんのわずかだけ緩んだ。


玉座の主――せつなは、静かに肘を置き、低く、圧のこもった声で返す。


「……なるほど。国家の判断か。ならば問うが――“国家”とは、いったい誰の意思だ?」


「……は?」


「この場所に構造物が現れた。それを“脅威”と決めつけ、軍を差し向けた。 では、その判断の根拠は? 貴様らがここに立っている、それだけの“資格”はあるのか?」


隊長が一瞬、返答に詰まる。


だがその間隙を埋めたのは――


「……ねぇ、じゃあ教えてもらえる?」


じゅぴが甘く微笑みながら、音もなく玉座から数歩前へ出る。


「こっちに“敵意”も“領土拡大の意志”も“暴走”も一切ないのに、どうして“調査対象”にされてるんすかねぇ?」


「たとえ城が突如出現したとしても……何の宣言もせずに、使者ではなく、兵を送り込むっすか? ……それ、“宣戦布告”って言うんじゃないっすか?」


くすりと笑うじゅぴの視線が、まっすぐ隊長を貫く。


そしてもう一つの影――


せつなの右手に控えるリィナが、ゆっくりと一歩前に出た。


「せつなの城を、“調べるだけ”で済むと思ってるなら……そっちのほうが異常だよ」


その声音は柔らかいが、内包する殺意は鋭利だった。


「ぼくたちは、“なにもしてない”のに。 勝手に来て、勝手に見て、勝手に調べて……気に入らなかったら、攻めるの?」


「そういう国なら、“話し合い”なんて要らないよねぇ」


一瞬、場の空気が張り詰める。


調査隊の数人が無意識に武器に手をかけかけ――


「やめろ、下がれ!」


隊長が鋭く命じる。


「……謝罪します。“監視下での調査”に値するかどうかの判断が、我々にはつかず……迂闊な対応でした」


その言葉に、玉座の主がようやく、静かに頷いた。


「……いいだろう。貴様らの態度、“及第点”とする」


一瞬、隊長が息を吐く。


せつなの声が続いた。


「報告に“虚偽”を混ぜるな。事実だけを持ち帰れ。――そして、“ここにあるもの”の意味を、正しく伝えろ」


「……はっ」


「貴様らにとって、ここは“異物”かもしれん。だが俺にとっては、“始まり”だ」


紅い光を帯びた視線が、全員を見渡す。


「――この世界の本質がどうあれ。ここは、俺の城。誰にも、渡すつもりはない」


その言葉に――誰一人、反論する者はいなかった。


静寂が戻る。


……


やがて、せつなが静かに立ち上がる。

その声は、決して大きくない。だが、すべてを支配する“王”の声だった。


「……帰れ。今日は“許す”。

――ただし、道中で“我の城から宝を持ち帰ろう”などとほざいた愚か者どもは……返す気はない」


その瞬間、隊列の後方で、ひとりの若い兵士がビクリと肩を揺らした。


「ち、違うんです! あれは、冗談で……! 本気で何かを盗もうなんて……っ!」


必死な弁解と共に前へと出る男。

だが、その足音は玉座に届く前に、すべてを凍りつかせた。


「……貴様、王の声を“言い訳”で遮るのか?」


その言葉と同時に、空気が変わった。


ギィィ……と空間が軋むような音。

それは、圧力の形をとった“怒気”だった。


兵士は、何かに喉を掴まれたように言葉を詰まらせ――膝をつく。


「リィナ」


「……了解」


せつなの命令に、一切の間を置かずに答えた影が、すでに動いていた。


音もなく近づき、男の背後から――刃閃。


一瞬。


血すら、まだ空中に留まっているうちに――兵士の命は、途絶えていた。


「……“愚者”に与える慈悲はない。それだけのことだよ?」


リィナは振り返ることなく、せつなの傍に戻る。

その動きに、恐怖すらも凍りついていた。


隊長は顔を伏せ、拳を握りしめながら、声を絞る。


「……深く、深く、お詫び申し上げます……」


せつなは、無言でそれを見下ろし――そして、言った。


「……残りの者は、帰っていい。

“許す”とは、そういう意味だ」


誰も口を開かない。

いや、開けなかった。


調査隊は――まるで処刑場から解放された囚人のように、謁見の間を後にしていった。


“王の城”という意味を、その足で、骨の髄まで理解しながら――

“交渉”とは名ばかりの、

“王による裁定”が下されました。


この空間において、真の意味で“言葉が通る”というのは、

それだけで“資格”の証明でもあります。


今回、王国の調査隊は、“生還”しました。

だが、彼らが見たのは――決してただの城ではなかった。


「ここは、俺の城。誰にも、渡すつもりはない」


その言葉の重みが、彼らの足跡に刻まれています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ