表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済】堕神ノ書 〜異界支配の始原〜  作者: せつな
第三章【静寂を裂く足音】
39/159

【黒き門の開示】


調査隊の先頭に立つ副官が、馬上から腕を振り上げる。


「……接近、停止。全隊、展開!」


掛け声とともに、城門前にずらりと整列する調査隊の兵たち。 全員が無言のまま、漆黒の巨城を見上げていた。


その門は、まるで意思を持つかのように静まり返り、

ただ重圧と異質さだけを放ち続けている。


――ごくり、と誰かが唾を飲んだ音が響く。


「……何だ、この空気……誰もいないのか?」


「静かすぎる……まるで、“監視されてる”みたいだ……」


副官が小さく首を横に振ると、隊長が前へ進み出た。


「こちら王都所属・南方調査隊。突然の出現につき、交渉および調査のため来訪した。 応答願いたい……!」


その声が、虚空に吸い込まれる。


誰もいない。 返答もない。


だが、その沈黙こそが――異常だった。


そのとき。


――ズゥウウン……ッ!!


大地が、低く震えた。


兵たちが反射的に剣を抜きかける。


そして。


黒き城門が、ゆっくりと……音を立てて、開き始めた。


ギィィィ……ィイイ……


軋むような、けれどまるで演奏されたかのような重厚な響きが、調査隊の耳に染み渡る。


その先に、誰かの姿が見えるわけではない。 ただ、開いた門の向こうに続く“玉座への道”が、静かに現れる。


「門が……!?」


「誰か、出てくるのか……?」


その瞬間――


空中に、突如として音が響いた。


低く、圧のある声。

すべての兵士がその場に凍りつくような、絶対的な響きだった。


『貴様らが、“我が領域”を無断で侵犯した理由……それを問おうか』


声は、どこからともなく降り注ぐ。

頭上か、胸の奥か……聞こえる場所がわからないほどに、深い。


『返答次第では――応えてやってもいい』


一瞬の静寂。


隊長が額に汗を浮かべながら、言葉を紡ぐ。


「こ、こちらは王都よりの正規調査隊! 貴殿の存在を“領内における未確認勢力”と判断し、交渉および確認のために派遣された!」


『ほう……貴様らの“正規”とは、随分と“無礼”を許す制度らしいな』


隊長の顔が引きつる。


兵士たちは……誰一人として、軽口すら挟めない。


それほどまでに、その声には威圧と――“本物の格”があった。


『いいだろう、ならば――入れ。

貴様らが語る言葉に、“価値”があるかどうか……我が決める』


――ゴウン……


門が、さらに大きく開かれる。


中に、無数の重厚な魔導灯が灯り、黒い石畳が奥へと続いている。


その道を、“試される者”のように歩くか――

あるいは、“踏み込めば消される”のか。


調査隊は、沈黙のまま――城の中へと、歩を進める。



黒き門をくぐった調査隊を迎えたのは―― あまりにも静かで、そして“異質”な空間だった。


延々と続く、漆黒の回廊。


壁、床、天井……すべてが漆黒の魔導石で構成され、 ところどころに走る金の装飾が、蝋燭の炎に照らされて仄かに輝いている。


石床には幾何学的な魔法紋様が刻まれ、踏みしめるたび、微細な魔力の脈動が足元を駆け抜けた。


(……なんだ、この城……構造も材質も、すべて“未知”だ……)


副官が硬い顔のまま、周囲を見回す。 だが、それ以上に部下たちは落ち着かない様子だった。


「お、おい……あの旗、見たか?」 「……通路の両側に吊るしてあるやつ? 何枚も……」 「ありゃ王都でもそうそうお目にかかれねぇ高級品だぞ……帰り際に、こっそり一枚くらい……」


その瞬間、背後から激しい怒声が飛んだ。


「……誰が許可した!!」


中隊長が剣の柄に手をかけながら、鋭く睨みつける。


「この場を“戦場”とでも勘違いしているのか! 目に見えるものすべてが、“敵の監視下”だと知れッ!」


「ひ、ひぃっ……! す、すみませんっ……!」


頭を下げる兵士たち。 だが、その緊張は、次の瞬間――“ある存在”を前に、さらに跳ね上がる。


謁見の間の扉、そこに立つのは――


黒基調の美しいメイド服を身に纏い、静かに佇む、二人の少女。


「……な、なんだよあれ……めっちゃ可愛くないか……?」 「へへっ、お嬢ちゃん、名前は――」


「…………」


まるで聞こえていないかのように、メイドたちは無表情のまま、礼儀正しく一礼した。


その所作には一切の隙がない。 ただの案内役――そう見えた者は、何かを“見誤った”だろう。


「こちらへ。謁見の間に、御案内いたします」


誘導に従い、重厚な黒鉄の扉がゆっくりと開く。


その先に広がるのは――


黒の玉座の間。


床も壁も天井も、すべてが“闇”のような深淵の黒で統一され、 金色の線が魔力の流れを描くように広がっていた。


天井の奥行きは視認できない。 黒に黒が溶け込み、どこまでが空間か、どこからが“闇”なのか……その境界が曖昧だった。


左右には、漆黒のフルプレートに身を包んだ兵士たちが静かに控え、 ただの“飾り”ではないと、誰の目にも明らかだった。


そして――


玉座の最奥。


黒曜の大玉座に、堂々と腰掛ける“支配者”がいた。


隙間から紅い光を灯すその視線は、確かに“見下ろして”いる。


その傍らには、軽やかに魔導卓を操る少女――じゅぴ。


そして、黒いメイド服に身を包み、玉座の右に控える影――リィナ=シュヴァルツ。


彼女たちの存在そのものが、“格”だった。


「……ここが、“謁見の間”……」


「……っ、動くな。無礼は……絶対にするな……!」


誰かがそう言ったとき――


空間に、再び“あの声”が響いた。


『ようこそ、“我が玉座”へ。……さて、続きといこうか』


その声に、兵たちは反射的に跪いた。


もはやこれは“交渉”ではない。


これは、“選別”。


この場に立つ者が、“存在を許されるのかどうか”――


その判定の場に、踏み込んでしまったのだ。

ついに王国の調査隊が、“玉座”の間へと足を踏み入れました。

だが――彼らが見たのは、ただの交渉の場ではありません。


そこは、“支配者が立つ場所”。

そして彼らは、今まさに“選ばれるか否か”の試練に立たされているのです。


この場に許されるのは、言葉ではなく“格”。

果たして、彼らの言葉に“価値”はあるのか

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ