【不穏な接近/盗聴と“支配者”の沈黙】
【不穏な接近】
同刻、王国南部――
騎馬に跨る調査隊の前衛が、ゆっくりと腕を上げる。
「……見えたぞ」
一行の先、森の切れ間に忽然と現れたのは――
漆黒の威容を持つ城だった。
その外観はあまりにも異様。
全体を包む“黒”は、ただの塗装ではない。
魔力そのものを構成材に織り込んだかのような密度で、周囲の光すら歪めて見せる。
そして随所に走る金色の紋様と装飾。
塔や門に施された彫刻は、この世界の技術では到底理解できない緻密な構造を持ち、見る者に圧迫感すら与えていた。
「……これが“報告にあった構造物”か……っ」
馬を降りた副官が声を漏らし、後ろの部隊員たちもざわつき始める。
「な、なんだこの建築は……」
「でかすぎるだろ……まさか、本当に突然現れたのか?」
「どっかの古代遺跡でも復活したんじゃ……」
そんな中、後方の荷馬車に乗っていた兵士たちが、ひそひそと囁きあう。
「なあ、こんな場所に突然城が出てきたってことは……中に“何か”あるってことじゃねぇか?」
「なにって……財宝とかだろ? 魔導核とか、古代装備とか……へへっ、上手くやりゃ出世かもな」
「マジかよ……俺、袋多めに持ってきときゃよかった……」
それを聞きつけた中隊長が、ぴしゃりと怒鳴る。
「馬鹿共! 聞こえてるぞ! 口を慎め!」
「……っ、し、失礼しました!」
「いいか! あくまで任務は“調査”だ。敵意を持たれれば、その瞬間“戦闘”に発展する。
遊び半分で来たと思うな! ……死ぬぞ、お前ら」
兵士たちは青ざめ、慌てて姿勢を正した。
だが、そのやり取りのすべて――
【盗聴と“支配者”の沈黙】
ネザリア城・情報制御室。
魔導スクリーンには、調査隊の映像と音声がリアルタイムで表示されていた。
じゅぴが指を動かし、次々にデータを記録していく。
「……はぁ〜、何言ってんすかね、あの下っ端ども……」
画面の中から聞こえてきたのは――
――『へへっ、何かお宝でもあったら儲けモンだな』
――『魔導核とかあったら、俺だけでもこっそり……』
――『なーに言ってんだお前、あとで分けろよ?』
それを聞いた瞬間、玉座の間にぴしりと空気が張り詰めた。
「……っ、ふざけたこと言ってくれる……っすねぇ」
じゅぴの声が、珍しく低くなる。
「せつなの城を、“宝探し”の遊び場扱い……あの口、潰してやりたいっす」
バンッ。
情報卓の角を、せつなが指で強く叩いた。
「……なめてるな」
その声音には、明確な怒気が含まれていた。
「こちらが沈黙していれば、“黙認”とでも思っているのか……」
「ほんと、頭の中までお花畑っすね……“お宝見つけて分けようぜ”とか、“袋持ってこなかった”とか……
なぁにが宝探しっすか、こっちはせつなの大事な“城”っすよ、ナメてると、マジで消えるっすよ?」
じゅぴの目がすっと細くなる。
「……せつな、命令を」
「監視は継続。こちらから動くな。……だが」
せつなが、ゆっくりと立ち上がった。
「この城は、俺が積み上げてきたものだ。
この場所に、命も時間も注ぎ込んで築いた、唯一の拠点――」
「……なめた口を利いたまま、帰れると思うな」
その一言に、リィナが静かに頷く。
「うん。言葉を返さないなら、命で返してもらうだけ」
「各防衛線は再確認。“敵意”と判断された瞬間、排除に移行して構わん。
……ただし、それまでは静かに、確実に“見て”いろ」
「りょーかいっす♡ ぜ〜んぶ、記録して、“証拠”にしておくっす!」
「リィナ。隠密経路の裏回り、もう一度洗え。“本命”はそこかもしれない」
「わかった。潜らせないように、“全部”、確認しておくね」
せつなは再び玉座へと戻り、腕を組んで座り込む。
「……この玉座の地に、一歩でも土足で踏み込むなら――その責任、踏み潰して教えてやる」
画面の中で、調査隊の隊列は城の視界圏に入りつつある。
魔導スクリーンの光が、じわりと血のように赤みを帯びていく。
支配者はまだ動かない。
だがその沈黙は、嵐の前――
“敵意”を迎え撃つための、最後の静けさだった。
王国の調査隊は、ついに“その城”を目視しました。
だが、彼らが見たのはただの建物ではない。
それは、せつながゲーム時代に築き上げた「全て」であり、絶対に踏み荒らされてはならない“城”でした。
挑発、油断、見下し――
そのすべてを“支配者”は、静かに見つめています。




