【帰還と情報の針/仮面の下の契約】
【帰還と情報の針】
森の外れ。傾き始めた陽が、木漏れ日のようにふたりの足元を照らしていた。
「……これで、必要分は採れましたね」
セリナがそっと籠を持ち上げる。
「おう、十分すぎる量だ。やっぱりすげぇな、セリナ」
ルカは肩にかけた袋を軽く揺らし、笑みを浮かべた。
(……ふふ。“信用”って便利な道具よね)
セリナは微笑みながらも、内心では着実に“距離感”を測っていた。
やがて、ふたりは舗装のない草道へと出る。
「……そういえば。あの、西門の件……」
「……!」
セリナの言葉に、ルカの歩みがほんの少しだけ止まった。
「……思い出させてすまない」
「……夢みたいにぼんやりしてて……でも、ルカさんが来てくれたのは……覚えてます」
セリナの声はかすかに震えていた。
「そっか……いや、あの時はオレたちも焦ってたよ。 痕跡見つけたとき、“このままじゃ全滅かもしれない”って話まで出ててさ……でも、あの光の糸がなかったら、間に合わなかった」
「……あれ、褒めてくれたんですよね。ギルドの人たち……」
「褒めるだろ、そりゃ。あんな的確な痕跡、プロのレンジャーだって難しいって話だったからな」
(ふふ……“自然に褒めさせる”のも、演技のうちよ)
「……ほんとうに、助けてくれて……ありがとうございました」
「お、おう。……あん時、泣いてたな、お前。すげぇ小っちゃく震えててさ……“守らなきゃ”って思ったよ」
「…………」
セリナは少しだけ、視線を伏せた。
(あれも演技なんだけどね。でも――そう思ってくれたのは、素直にうれしいわね)
「なぁ、セリナ」
「……はい?」
「またさ、一緒に組まないか? こうして話してみたら、オレ、お前のこと……もっと知りたくなった」
「…………!」
少しだけ、言葉に詰まる。
でも――
「……わたしも。ルカさんと一緒、すごく安心できました」
にっこりと微笑むその表情は、まるで光そのもののようだった。
(ようこそ、“仮面の演目”へ)
セリナはその笑顔の裏で、冷静に思考を巡らせていた。
【仮面の下の契約】
ギルドの木製扉をくぐると、暖かな声と香ばしいスープの匂いがふたりを迎えた。
夕刻の酒場フロアは、冒険者たちの笑い声で賑わっている。
セリナは軽く目を伏せ、周囲の喧騒をやわらかく受け流した。
(……こうして溶け込む“日常”も、悪くないわ)
受付で依頼完了の報告を終えると、担当の職員が笑顔で銅片を手渡す。
「ふたりともお疲れ様! 今日は特に問題もなかったようですね。これが報酬です」
銅片17枚。
それは“新人”としては十分すぎる額だった。
「ありがとうございます」
セリナが一礼し、報酬袋を懐にしまう。その動作にも、無駄は一切ない。
(薬草の選別も良かったし、会話しながらちゃんと周囲も見られた。 ……依頼内容の“確認”も、“周囲の視線”も、全部問題なし)
「セリナ、お前やっぱすげぇわ。オレ、次もお前と組めるなら安心だ」
「……わたしも、ルカさんと……一緒に、また行きたいです」
(“気を許した”ように見せて、心の壁はそのまま。 甘えすぎず、でも……信頼してる“ように”見せて)
ルカが頷きながら、少し照れたように髪をかく。
「んじゃ、明日も……ってのはちょっと無理だろうし……明後日くらい、どうだ?」
「……はい、ぜひ」
ふたりの間に、ささやかな“次の約束”が交わされた。
そのやりとりの全てを、セリナは冷静に記録している。
(……ルカは利用できるわね。“味方”として育てれば、情報収集にも繋がるわ)
(……でも、それ以上は、ない。わたしの心は、すべて“せつな様”に捧げられているんだから)
心の奥で、淡く微笑む。
その笑顔は、仮面の奥に浮かぶ“本心”。 ――誰にも触れさせない、主への忠誠。
表面の柔らかさと、内側の冷静さ。 ふたつの仮面を纏う彼女は、今日も静かに“この街”を泳ぎ続ける。
第二章・最終話では、セリナが“仮面の演技”によって街での信頼を少しずつ築き始めました。
しかし――その笑顔の奥には、誰にも触れさせない“本心”が存在します。
すべては“せつな様”のために。
彼女の忠誠は、誰にも見えず、誰にも奪えない。




