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【完結済】堕神ノ書 〜異界支配の始原〜  作者: せつな
第二章【仮面の潜入者】
33/159

【共に歩く影/影の距離と微笑み】

【共に歩く影】

翌朝――

ギルドの依頼掲示板前、すでにざわめきが始まっていた。


セリナは、まだ少しだけ怯えた様子で掲示板を眺めていた。

しかし、その瞳は油断なく、掲示物の一枚一枚を読み取り、情報の整合性を心の中で素早く処理している。


(……よし、依頼内容は薬草調達の延長系。危険度は低め、だけど行動範囲はやや広い)


「おっ、来てたかセリナ!」


声をかけてきたのは、昨日の救助隊の冒険者。

セリナが振り向くと、彼はにこやかに手を振ってきた。


「……おはようございます」

(よし、ここで少しだけ“距離”を縮める……)


「今日、一緒に行ってみないか? 昨日言ってたけど、色々教えてやれるしさ。実地のほうがわかりやすいだろ?」


セリナは、わずかに戸惑ったような素振りを見せながら、控えめに頷いた。


「……はい。よければ、その……お願いします」


「よし、それじゃ決まりだな! そうだ、言ってなかったな。オレ、ルカ。ルカ=フェイルってんだ」


「ルカ……さん……?」


「うん。よろしくな、セリナ。気楽にいこうぜ」


(ルカ=フェイル、ね……動きは素直。警戒心も低い。だけど経験はそれなりにあるっぽい。悪くない相手)


セリナは一礼し、ルカの後について歩き出す。


ふたりが受けたのは、近郊の森での薬草と香草の採取依頼。

危険度は低いものの、地形が複雑で、方向感覚が狂いやすい場所らしい。


(……いいわね。街の外で会話の距離を測れるし、彼の能力や癖も観察できる)


「なあ、セリナ。昨日の痕跡のこと……やっぱすごいなって思ったよ。誰かに教わったのか?」


「……昔、少しだけ。覚えてる範囲で……やっただけ、なんです」


(ふふ、こう言っておけば“誰かに教わった”って思ってくれる。自然に思い込んでくれるのって、楽よね)


「そっか。オレもああいう技術、覚えたいなぁ。今度教えてくれよ?」


「……わたしでよければ」


柔らかく微笑んでみせると、ルカは照れたように頬をかいた。


(ちょろいわね……でも、こういう“ちょろさ”が、いい情報源になる)


森の入り口に差しかかる頃には、セリナの中で次の“仮面の一手”が静かに形をとりはじめていた。




【影の距離と微笑み】

森の奥、淡い木漏れ日の中。

セリナは小さな籠を手に、薬草の生える根本にしゃがみ込んでいた。


「……この辺り、香草の匂いが濃いです。たぶん、近くに群生があると思います」


「お、すごいな。オレ、全然わかんねぇや。こっちのは見た目だけじゃ当たり外れが多くてなー」


「葉の縁の細かいギザギザで見分けられることも……あるみたいです」


(“教えてあげる”というポジションに立てば、自然と距離が縮まる。

こっちの都合で距離感をコントロールできるのは、悪くないわ)


「セリナってさ、こういうのほんとに初めてなのか?」


「……はい。森に入るのも……たぶん、初めて、です」


少し俯き、弱々しく笑う。


だが――その瞳は、木々の隙間に潜む鳥獣の気配や、風向きの変化すら逃さず捉えていた。


(野生魔物の反応、今のところはなし。だけど西側の気配が変わった……“誰か”がいる)


「なあ、セリナ。さっきの……ありがとな」


「……え?」


「オレ、なんかあんまり人に頼られることってなかったからさ。こうやって一緒にいてもらえるの、ちょっと……嬉しい」


その言葉に、セリナは一瞬、目を見開いた――ふりをした。


「……っ、そんな……わたしなんて……」


「いや、マジで。……あの時の痕跡も、今の見極めも、ほんとに助かってるよ」


(……ふふ。もう、“信頼の芽”は撒けたってとこね)


セリナはふわりと微笑んだ。


「……ありがとうございます。わたし、がんばります。これからも、色々教えてください」


「おう、任せとけ!」


ルカの笑顔は純粋だった。

セリナは、その笑顔を“仮面越し”に見つめながら、静かに心の中で呟く。


(――ちょうどいい、わたしの“影”にしてあげる)


その笑みは、まるで無垢な少女のように柔らかく。


けれど内心では、確実に一歩――街に近づくためのピースを手に入れていた。

セリナが歩みを進め、ついに“冒険者の仲間”と呼べる存在と距離を縮めました。

けれど、その笑顔の奥には、常に“仮面”が――

信頼のふりをして、静かに“影”を伸ばしていく様子は、まさに彼女らしさ満載だったと思います。

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