【静寂の号令/街の空気と再会の影】
【静寂の号令】
「じゅぴ、警戒態勢を平常運転まで戻せ。
城内は最低限の自衛モード、誤警報を避けろ」
「了解っす♡ 再起動系ユニット、全部低稼働モードに戻しておくね〜」
魔導端末の光が淡く波打ち、結界ラインと監視魔眼が順次フェードダウンしていく。
せつなは一拍、息を置いてから――
「偵察部隊を周囲に展開しろ。
東西南北に分けて、可能な限り広範囲に散らして調査を開始。
……何かを見つけるまで、戻るな」
じゅぴの指が止まる。
「――最優先事項は?」
「“誰にも気づかれるな”。
発見されたら即座に撤収。
……隠密こそが、この行動の鍵だ」
せつなの声は、冷たく、深く、迷いがない。
「いけ」
その一言で、空間に展開されていたユニット召喚陣が一斉に点滅し、
次の瞬間、無数の影が静かにネザリア城を離れていった。
玉座の間には、再び静けさが広がる。
だがそれは、ただの静寂ではなかった。
“支配の網”が、今まさに世界へと広がりはじめていた――
――そして、場面は再び、城の地下へと降りていく。
(せつなの命令……守ったつもりだったけど、やっぱり……やりすぎ、だったかな)
拷問室の暗がりで、リィナはわずかに目を伏せた。
けれどその表情には、後悔ではなく――
満足げな、甘く蕩けた微笑みが浮かんでいた。
紅い瞳が、かすかに光を帯びる。
「……ふふ、でも。ぼく、“いい子”だったよね……せつな?」
そう呟くようにして、影の中に身を溶かす。
影メイド、リィナ=シュヴァルツ。
彼女の“尋問”は終わった。
けれどその爪痕は、確実に“敵の核”を抉っていた――
【街の空気と再会の影】
朝の陽射しが、静かに石畳の路地を照らしていた。
セリナはギルド寮の玄関を出ると、ゆっくりと歩き出す。
(……まだ“怯えてるふり”は続けなきゃね)
足取りは重く、表情もどこか曇らせたまま。
だがその内心は、まるで別物。
(ほんとは……また面白いこと、起きないかなって思ってるのに)
昨夜の《幻響連絡》で、せつなから新たな指示はなかった。
だから今は、“普通の冒険者の少女”としての時間。
「今日は……ただ、街を歩くだけ。情報は自然に耳に入るし、ついでに雰囲気も見れるし……ね」
仮面の奥で小さく笑い、通りの露店や人の流れを眺める。
(……うん。ほんの少しだけ、緊張が解けてる。街の空気、昨日より柔らかい)
そのとき。
「……あっ! おい、そこの……セリナ、だっけか?」
声に反応し、セリナはびくりと肩を震わせる――ふりをした。
「え……?」
振り返ったその先。
立っていたのは、あの夜、自分を助け出してくれた救助隊の一員だった青年冒険者。
赤茶の髪を後ろで束ね、軽装の鎧をまとった彼は、明るく笑いながら歩み寄ってくる。
「やっぱりそうだ。あの時の……覚えてるか? 無事でなによりだ!」
セリナは、ゆっくりと頭を下げた。
「……あの時は、本当に、ありがとうございました……」
小さな声。伏せた視線。怯えるような仕草。
(ふふ、警戒されない距離感、大事よね。今のは完璧)
「いやいや、礼なんていいさ。むしろこっちが驚いたよ。
お前が残してくれた痕跡、あれがなかったら本当に見つけられなかった。あんな器用な真似、なかなかできるもんじゃないぜ?」
「……え……? わたし、そんなにすごいことは……」
(ばっちり痕跡撒いてたけどね。見つけられたってことは、それだけ“この世界の人間”にも使える奴がいたってこと)
「そうそう、ギルドのほうでも話題になってたんだぞ。“痕跡の少女”ってな。
お前、しっかりしてるなって皆言ってた」
「……ぁ……そんな、わたし、ただ、逃げたくて……」
頬を赤らめ、目を伏せる。
表面上は、まるで緊張して戸惑っているかのように――
(よし、この感じで繋がりを作っておけば……街側の“冒険者たちの輪”にも自然に入り込める)
「……あの、よかったら……また、色々教えてください……。わたし、まだ慣れてなくて……」
「おう任せとけ。こっちはいつでも歓迎だ!」
にこやかにそう言って去っていく冒険者の背中を、セリナは静かに見送る。
(ふふ……“味方”が増えていくの、嫌いじゃないわ)
そして彼女は、再び歩き出す。
仮面の下に、静かな笑みを隠して――
街の深部へと、その“気配”を探しながら。
せつなの指揮により、ネザリアの影は静かに世界へ展開を始めました。
その一方で、セリナは再び“日常の仮面”をかぶり、街の中に自然と溶け込んでいきます。




