【偵察と接触】
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【偵察と接触/潜入の夜】
闇の帳が降りる頃――
せつなとじゅぴは、ネザリア城のバルコニーに立っていた。
「……準備、整ったっす」
漆黒のドレスに身を包んだじゅぴが、ひらりとスカートの裾を摘まみ、小さく会釈する。
ゴスロリ調の魔導装束は、華やかでありながら戦闘用としても最高峰。
繊細な装飾の下に強化魔導繊維を仕込んだ防御装甲が組み込まれており、じゅぴの細身の身体を際立たせていた。
「可視抑制フィールド展開。魔力反応は転写遮断……これで、誰にも見つからないっすよ♡」
「よし、行くぞ。じゅぴ」
「了解っす、せつな。――不可視化、発動っ♡」
淡く揺れる空気の中で、ふたりの姿はそっと闇に溶けていく。
目指すは、西南十キロ先に発見された都市。
この世界の“謎”を確かめるため――
【偵察と接触/街の外縁にて】
冷たい風が草むらを撫で、土の匂いと微かな煙の残り香が漂う。
石造りの城壁に囲まれた中型の街。
その外縁部に身を隠しながら、じゅぴがスキャンを行っていた。
「……高さ、約六メートル。外壁に魔力構造なし。完全な物理壁っす」
指先から放たれた光の矢が、壁をなぞるように走る。
瞬時に情報が解析され、じゅぴの視界に流れ込んでいく。
「警備も巡回も少ないっすね。門番は二人、装備は革鎧に短槍……反応速度は並以下」
「……この構造。やはり“初期のアーク”に似ているな」
せつなの言葉に、じゅぴが頷く。
「うん。街の設計、住民のステータス、全体の雰囲気……リリース直後の頃に近い気がするっす」
遠目に見える鍛冶場の赤い灯、宿屋の看板、数軒の商店と露店――
確かに“生活の匂い”はある。
だが、その空気は――
「……活気が、ないねぇ」
じゅぴが、ぽつりと呟いた。
「……なんか、静かすぎるっすよね」
囁くような声で、じゅぴが言う。
不可視の魔法に包まれたふたりは、完全に姿を消している。
それでも……まるで誰かに“見られている”ような感覚があった。
周囲には気配がない。それでも確かに、何かが“監視”しているような圧を感じる――
「子供の声も、笑い声もない。……警戒でもしてるのか?」
せつなが視線をめぐらせる。
門前を掃いていた老婆の手が、止まったまま動かない。
「単なる寂れた街じゃなさそうっす。何か、情報が遮断されてる……そんな感じ」
崩れかけた石壁、修繕の痕跡すらない街の外郭。
魔法の防御フィールドもない。
なのに、外敵の姿もなく、住民たちは怯えるように暮らしている。
まるで――何かに“縛られている”ようだった。
「せつな、どうするっす? 潜入しちゃう?」
じゅぴが好奇心に満ちた声で問いかける。
その横顔には、AIだった頃には見せなかった“表情”があった。
「……いや、まだだ。もう少し様子を見る。
可能なら、情報を集めて……友好的に接触できれば、なおいい」
「ん〜……友好的、ねぇ……。
この状況で“仲良く”しようとするせつな、ほんと優しいんだから」
じゅぴがくすりと笑い、そっとせつなの腕に触れる。
「でも……うん。じゅぴも、そういうの――嫌いじゃないっすよ」
潜入偵察、始まりました!
今回はじゅぴとせつなのやり取りを中心に、ちょっと静かな異変と不穏な空気感を描いてみました。