【仮面の朝と優しき嘘/仮面と散歩と街の気配】
本日もう一話です!
朝。
ギルド寮の一室に、柔らかな光が差し込む。
仮面の下で、セリナは静かに目を開けた。
胸元には、せつなから授かった指輪が、肌に触れる温もりを残していた。
(……夢じゃなかった、のね)
ふっと小さく笑い、身体を起こす。
深く呼吸を整え、仮面を手に取る。
――今日も、“演じる”時間。
ギルドの食堂。
朝のざわめきの中、セリナはひとり、隅の席に腰を下ろしていた。
仮面をかぶった少女が食べているのは、薄いパンと温いスープ。
手元は少し震えているように見える。
「……」
(演技にしては、ちょっと揺らしすぎたかしら。まあ、いいわ。あえて“心細さ”を残しておくのも効果的)
冒険者たちの視線がちらちらと彼女を捉える。
「……あの子が昨日の……」 「まだ顔色が悪いな。無理もないか」
セリナは、肩をすくめるように俯いた。
手元のスープに視線を落としつつも、周囲の動きを、気配で正確に追っている。
(ふふ……“がんばって立ち上がってる子”って思われてる。
ほんと、ちょろいのよね……優しさって。簡単に利用できるわ)
そのとき、厨房から女性職員が歩いてくる。
「……これ、余ったの。よかったら、どうぞ?」
小さな追加のパンと温かいスープ皿が、そっと差し出される。
セリナは一瞬、戸惑うふりをしてから、顔を少し傾けた。
「……ありがとう、ございます……。すみません……」
(ほんと、優しいわね。こういう人が一番危なっかしいのよ。
でも、嫌いじゃないわ)
彼女の声は小さく震え、礼儀正しく、弱々しい。
けれど――その仮面の奥では、瞳が鋭く細められていた。
【仮面と散歩と街の気配】
昼下がりの陽光が、石畳の街を穏やかに照らしていた。
ギルド寮の玄関で、セリナは仮面を整えるようにそっと手を添える。
「……まだ、外には出ない方がいいんじゃない?」
ギルド職員のひとりが声をかける。
優しげな中年の男性だ。昨夜の救助隊のひとりでもある。
「……だいじょうぶ、です。すこし……散歩、するだけだから」
その声はかすれて、小さく、震えていた。
「そっか……なら、あまり遠くには行かないでね。何かあったら、すぐ戻ること。いいね?」
セリナは、こくんと頷いた。
“怯えた少女”の演技は、今日も隙がない。
(……本当は、歩けないフリしてもう一日引きこもるつもりだったけど。
やっぱり、情報は“街の中”に落ちてるのよね)
(それに……)
仮面の下で、唇がわずかに緩む。
(こんなにみんな優しくしてくれるんだもの。“期待”には応えなきゃ、ね?)
ギルド前の広場を横切り、ゆっくりと街道へ足を向ける。
視線はうつむき加減。
肩もほんの少しだけすぼめて――まるで、外に出るのも怖がっているかのように見せながら。
(でも実際は、空気の流れ、商人の通る方角、すれ違う人間の荷物まで、全部“見てる”わ)
淡く笑って、セリナは街の片隅へと姿を消した。
救助後の仮面の少女・セリナは、街の中へと“散歩”に出かけます。
しかしそれは、ただの気晴らしなどではありません。
優しさに応えるふりをしながら、情報を拾い、状況を読む――それが彼女の“日常”なのです。




