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【完結済】堕神ノ書 〜異界支配の始原〜  作者: せつな
第二章【仮面の潜入者】
29/159

【仮面の朝と優しき嘘/仮面と散歩と街の気配】

本日もう一話です!


朝。

ギルド寮の一室に、柔らかな光が差し込む。


仮面の下で、セリナは静かに目を開けた。

胸元には、せつなから授かった指輪が、肌に触れる温もりを残していた。


(……夢じゃなかった、のね)


ふっと小さく笑い、身体を起こす。

深く呼吸を整え、仮面を手に取る。


――今日も、“演じる”時間。


ギルドの食堂。

朝のざわめきの中、セリナはひとり、隅の席に腰を下ろしていた。


仮面をかぶった少女が食べているのは、薄いパンと温いスープ。

手元は少し震えているように見える。


「……」


(演技にしては、ちょっと揺らしすぎたかしら。まあ、いいわ。あえて“心細さ”を残しておくのも効果的)


冒険者たちの視線がちらちらと彼女を捉える。


「……あの子が昨日の……」 「まだ顔色が悪いな。無理もないか」


セリナは、肩をすくめるように俯いた。

手元のスープに視線を落としつつも、周囲の動きを、気配で正確に追っている。


(ふふ……“がんばって立ち上がってる子”って思われてる。

ほんと、ちょろいのよね……優しさって。簡単に利用できるわ)


そのとき、厨房から女性職員が歩いてくる。


「……これ、余ったの。よかったら、どうぞ?」


小さな追加のパンと温かいスープ皿が、そっと差し出される。


セリナは一瞬、戸惑うふりをしてから、顔を少し傾けた。


「……ありがとう、ございます……。すみません……」


(ほんと、優しいわね。こういう人が一番危なっかしいのよ。

でも、嫌いじゃないわ)


彼女の声は小さく震え、礼儀正しく、弱々しい。

けれど――その仮面の奥では、瞳が鋭く細められていた。



【仮面と散歩と街の気配】

昼下がりの陽光が、石畳の街を穏やかに照らしていた。


ギルド寮の玄関で、セリナは仮面を整えるようにそっと手を添える。


「……まだ、外には出ない方がいいんじゃない?」


ギルド職員のひとりが声をかける。

優しげな中年の男性だ。昨夜の救助隊のひとりでもある。


「……だいじょうぶ、です。すこし……散歩、するだけだから」


その声はかすれて、小さく、震えていた。


「そっか……なら、あまり遠くには行かないでね。何かあったら、すぐ戻ること。いいね?」


セリナは、こくんと頷いた。

“怯えた少女”の演技は、今日も隙がない。


(……本当は、歩けないフリしてもう一日引きこもるつもりだったけど。

やっぱり、情報は“街の中”に落ちてるのよね)


(それに……)


仮面の下で、唇がわずかに緩む。


(こんなにみんな優しくしてくれるんだもの。“期待”には応えなきゃ、ね?)


ギルド前の広場を横切り、ゆっくりと街道へ足を向ける。


視線はうつむき加減。

肩もほんの少しだけすぼめて――まるで、外に出るのも怖がっているかのように見せながら。


(でも実際は、空気の流れ、商人の通る方角、すれ違う人間の荷物まで、全部“見てる”わ)


淡く笑って、セリナは街の片隅へと姿を消した。

救助後の仮面の少女・セリナは、街の中へと“散歩”に出かけます。

しかしそれは、ただの気晴らしなどではありません。

優しさに応えるふりをしながら、情報を拾い、状況を読む――それが彼女の“日常”なのです。

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