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【完結済】堕神ノ書 〜異界支配の始原〜  作者: せつな
第二章【仮面の潜入者】
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【影の報告と静かな波紋】


ギルド寮の個室。

暖かな毛布、用意された軽食、水差しと――過保護すぎるほどのケア。


セリナはその中央に、縮こまるように座っていた。

だがその表情は――布団の影で、すっかり“仮面”を外している。


(よし、これで“心身ボロボロ”の演技は完璧)


彼女はベッド脇の壁にそっと指を当て、魔力を静かに収束させた。


「《幻響連絡ファンタズム・コール》――せつな様」


空間が微かに揺らぎ、小さな幻影ウィンドウが開かれる。

そこに映るのは、あの玉座――その主は、静かに彼女の声を待っていた。


「……無事、救助されました。演技は継続中。現在、ギルド寮にて休息中を装っています。

目立った損傷なし。敵拠点内で幹部クラスを一体捕縛、転送済み。

街側からの評価は、“被害者かつ功労者”。立ち位置、悪くありません」


『よくやった、セリナ。……無理はするな』


「……はい、ありがとうございます、せつな様」


幻影越しの静寂――

だがその直後、せつなの声が再び届いた。


『夜、そちらに転移する。渡したいものがある。

結界を張り、誰にも気づかれない状態にしておいてくれ』


「……っ、畏まりました」


返答は短く、即答だった。

だがその言葉の裏で、セリナの心は大きく揺れていた。


(……うそ。直接、来てくれるの……? 渡したいものって、なに……?

もしかして、褒美……? ご褒美……!?)


胸の奥が熱くなる。

仮面の奥では、普段の冷静さが崩れ、口元がわずかにほころんでいた。


(だめ、落ち着かなきゃ……でも、うれしい……っ。

せつな様が、“わたしに用がある”って……それだけで……)


そのころ、ギルドの作戦室では――

救助に向かった冒険者たちが、報告を終えていた。


「……で、驚いたのが、痕跡の残し方ですよ。魔力を遮断された場所で、なおかつ消されないように配置されていて……」


「しかも、“気づかれるように”じゃなく、“気づかせたい相手だけに”届くよう設計されてた。

ありゃ、普通の子じゃできない。かなり練度高い“何か”だ」


副ギルドマスターが腕を組み、難しい顔で唸る。


「……彼女、仮面のまま登録したんだろ? 正体も、出自も不明。

……でも、これだけやるってことは、“ただの新米”じゃない」


「はい。ただ、本人は――」


そう言いかけて、報告者はふと口を噤む。

思い出したのは、あのときの震える肩と、泣き崩れる姿。


「……ものすごく怯えてました。演技なんかじゃないと思います、俺は。

……たとえ何か過去があるとしても、“今は”味方にして損はないかと」


「……ふむ」


作戦室の空気が、静かに変わる。


仮面の少女――セリナ。

彼女が“ただの一時的な生存者”ではないという事実が、

少しずつ、この街の中に“波紋”として広がりはじめていた。

ギルドに救助され、街での評価は“功労者”――

けれど、彼女はまだ仮面を外してはいません。

せつなへの報告、そして“彼が自分に会いに来る”という言葉に揺れる姿……

それは仮面の奥にいる、“一人の少女”の本音でした。

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