【影の報告と静かな波紋】
ギルド寮の個室。
暖かな毛布、用意された軽食、水差しと――過保護すぎるほどのケア。
セリナはその中央に、縮こまるように座っていた。
だがその表情は――布団の影で、すっかり“仮面”を外している。
(よし、これで“心身ボロボロ”の演技は完璧)
彼女はベッド脇の壁にそっと指を当て、魔力を静かに収束させた。
「《幻響連絡》――せつな様」
空間が微かに揺らぎ、小さな幻影ウィンドウが開かれる。
そこに映るのは、あの玉座――その主は、静かに彼女の声を待っていた。
「……無事、救助されました。演技は継続中。現在、ギルド寮にて休息中を装っています。
目立った損傷なし。敵拠点内で幹部クラスを一体捕縛、転送済み。
街側からの評価は、“被害者かつ功労者”。立ち位置、悪くありません」
『よくやった、セリナ。……無理はするな』
「……はい、ありがとうございます、せつな様」
幻影越しの静寂――
だがその直後、せつなの声が再び届いた。
『夜、そちらに転移する。渡したいものがある。
結界を張り、誰にも気づかれない状態にしておいてくれ』
「……っ、畏まりました」
返答は短く、即答だった。
だがその言葉の裏で、セリナの心は大きく揺れていた。
(……うそ。直接、来てくれるの……? 渡したいものって、なに……?
もしかして、褒美……? ご褒美……!?)
胸の奥が熱くなる。
仮面の奥では、普段の冷静さが崩れ、口元がわずかにほころんでいた。
(だめ、落ち着かなきゃ……でも、うれしい……っ。
せつな様が、“わたしに用がある”って……それだけで……)
そのころ、ギルドの作戦室では――
救助に向かった冒険者たちが、報告を終えていた。
「……で、驚いたのが、痕跡の残し方ですよ。魔力を遮断された場所で、なおかつ消されないように配置されていて……」
「しかも、“気づかれるように”じゃなく、“気づかせたい相手だけに”届くよう設計されてた。
ありゃ、普通の子じゃできない。かなり練度高い“何か”だ」
副ギルドマスターが腕を組み、難しい顔で唸る。
「……彼女、仮面のまま登録したんだろ? 正体も、出自も不明。
……でも、これだけやるってことは、“ただの新米”じゃない」
「はい。ただ、本人は――」
そう言いかけて、報告者はふと口を噤む。
思い出したのは、あのときの震える肩と、泣き崩れる姿。
「……ものすごく怯えてました。演技なんかじゃないと思います、俺は。
……たとえ何か過去があるとしても、“今は”味方にして損はないかと」
「……ふむ」
作戦室の空気が、静かに変わる。
仮面の少女――セリナ。
彼女が“ただの一時的な生存者”ではないという事実が、
少しずつ、この街の中に“波紋”として広がりはじめていた。
ギルドに救助され、街での評価は“功労者”――
けれど、彼女はまだ仮面を外してはいません。
せつなへの報告、そして“彼が自分に会いに来る”という言葉に揺れる姿……
それは仮面の奥にいる、“一人の少女”の本音でした。




