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【完結済】堕神ノ書 〜異界支配の始原〜  作者: せつな
第二章【仮面の潜入者】
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【仮面の涙と静かな愉悦】


「……よかった、無事だ!」


駆け寄ってきたギルドの救助隊員が、縛られたセリナを抱きとめた。

その瞬間、彼女の肩が――小刻みに震え始める。


「ひっ……こわ……いっ……っ!」


声が掠れ、仮面の下から、抑えきれない嗚咽が漏れた。

涙の演技は、完璧だった。


(……ほんと、簡単よね。こうやって震えてさえいれば、“誰も”疑わない)


肩を揺らし、嗚咽を漏らしながら、セリナはゆっくりと隊員に身を預けた。


「もう大丈夫だ、安心しろ。おまえの残してくれた痕跡――見事だったよ。

あれがなかったら、今も居場所すら分からなかったかもしれない……」


「そ……んなつもりじゃ……なくて……ただ……気づいてほしくて……っ」


震えながら吐き出す声に、救助隊の男がそっと背をさすってくれる。


(“悲劇の少女”のままが一番扱いやすいのよね。……英雄なんて、バレやすいもの)


仮面の少女は、潤んだ瞳の奥で、うっすらと笑う。


ギルド本部――緊急搬入口。


セリナは、まだ仮面をつけたまま、毛布に包まれ椅子に腰かけていた。

数名のギルド関係者が、焦ったように周囲を飛び回っている。


「君、大丈夫か!? 名前、言えるか?」


「ど、どうだった!? 拠点の位置、敵の数、仲間の様子は!?」


次々と投げかけられる質問。

だがセリナは――何も答えなかった。


身体を震わせたまま、ただ両腕を胸元に抱き、視線を伏せる。


「っ……! 質問を止めてください、今は無理です! 状態が不安定だ!」


救助隊のリーダーがそれをかばい、前に出た。


「状況は俺たちが把握しています。彼女はほとんど話せる状態じゃない……無理に聞くのは逆効果です」


「そ、そうか……わかった……」


セリナの視線が、毛布の奥で、ほんのわずかに揺れた。


(ふふ……心配して、庇ってくれて……やっぱり、人間って……面白い)


仮面の内側では、彼女の口元がほんのわずかにほころぶ。


(でも、まだよ。“震える子犬”の役目は、もう少し続けなきゃ)


仮面の下――

震える少女のふりをしながら、セリナは冷静に“情報の流れ”と“人々の動き”を観察し続けていた。

今回もお読みいただき、ありがとうございます!


潜入任務を終えたセリナは、無事に救助されることができました。

けれどその“演技”は、まだ終わりではありません。

涙を流し、怯えながらも、彼女の仮面の奥では冷静な観察と計算が続いています。

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