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【完結済】堕神ノ書 〜異界支配の始原〜  作者: せつな
第二章【仮面の潜入者】
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【閉ざされた檻で/中断された愉悦】

【閉ざされた檻で】

薄暗い石室の空気は、湿り気と金属の臭いを帯びていた。


壁の隙間から漏れる灯りもなく、目を開いていても、ほとんど闇しか見えない。


セリナは、その中で小さく丸くなって、壁に背を預けていた。


両手は背中で縛られ、足首には簡素な鉄鎖がかけられている。


「……っ、こわい……っ」


かすれる声。震える吐息。

ただの怯えた少女にしか見えない、完璧な演技。


だがその内側――仮面の奥では、まったく別の“熱”が脈打っていた。


(……ふふっ。いいわ、ほんとに。これ以上ないくらい状況が整ってる)


セリナの意識は、縛られた身体とは別に、鋭く世界に向かって開かれていた。


感覚スキル《気配感知》《空間把握》《音律追跡》《魔力読解》。

すべてを、限界まで研ぎ澄ませて展開する。


(右隣の壁の裏、空間が広がってる。二人分の魔力反応。立ち位置と動きから……見張りか)


(天井の空気、ほんの僅かに“暖かい”……抜け道じゃない、煙突。厨房が上にある)


(この石室全体が魔力障壁で包まれてるけど、構成が甘い。魔導士じゃなく、道具式ね)


目を閉じながら、まるで音楽を聞くように空間を“読んで”いく。

小さな音、湿気の流れ、床をかすめた微風。


すべてが、情報だった。


(向かいの部屋、男の囚人が独り。……声が小さい。呼吸が浅い。眠らされてる……?)


(下の階……鈍く振動してる。あれは……“魔力炉”? 拠点にしては規模が大きい)


そんな中、石壁の向こうから声が届く。


「……今夜“選別”する分は終わった。明日は“反応持ち”を順に運ぶ。女を優先しろ」


「管理番号17番と23番、それから仮登録のガキ……セリナって名だったか。あれも候補だ」


セリナの口元が、ほんの僅かに吊り上がる。


(あら……もう見つかっちゃった。ふふ、“反応持ち”って分類、されちゃったのね)


(でも残念。あたし、ただの仮登録の新人ですよ? ……ねぇ、早く誘導してくれないかしら)


拘束されたまま、情報の網を張り巡らせながら。


その胸の奥では、“観察者”としての興奮が高鳴っていた。


(このアジト、絶対にただの誘拐施設じゃない。

魔力炉に反応選別……裏には、もっと大きな“意志”がある)


(なら、全部引っ張り出して……せつな様に届けなきゃ)


怯えた仮面の下で、セリナは静かに息を吐いた。


「……だいじょうぶ、きっと……誰か、助けに来てくれるから……」


弱く、揺れるように。

それは、誰かに寄り添う“優しい声”のふり。


でも実際は――

救助の足音が近づくのを、ただ楽しみに待つ“黒い仮面の少女”。


その微笑みは、夜よりも暗く、けれどどこか妖しく光を孕んでいた。






【中断された愉悦】

カチン――


扉の魔力封印が解除される、乾いた音。


それに続いて、ゴトンと鉄の鍵が回され、石室の重たい扉が軋みながら開いた。


「起きろ。貴様、次の選別だ」


足音が近づき、乱雑な手つきでセリナの肩を引き起こす。

彼女は小さく身体を揺らし、縛られたまま不安げに首を傾げた。


「……どこへ、連れていくの……?」


声は震え、目元には仄かに涙すら浮かんでいる。


だがその内心は、別物だった。


(やっと、来たわ……“選別”。このまま連れていかれれば、もっと深い情報に近づける……)


(魔力炉、管理者、目的、内部構造――全部引き出せるチャンス)


セリナは自分の中の興奮を懸命に押し殺しながら、“おびえた少女”を演じ続けた。


連行役の男が無言で彼女の縄を引く。


(さあ、奥まで案内して。あとは観察して記録して、せつなに全部――)


――そのときだった。


ズガァンッ!!


遠くから響いた、爆音。

地下構造の天井が小さく振動し、空気が一瞬だけ震える。


「な、なんだ!? 外からか!?」


怒号。走り出す足音。

続けて、複数の魔法が爆ぜる音と、剣戟の金属音。


(……はぁ……)


セリナは、縛られた手をわずかに持ち上げ、表情に出さぬまま深く息を吐いた。


(きちゃった……まじか。……タイミング、最悪)


(あと数分。たったそれだけ我慢してくれてたら、“裏の中枢”に辿りつけたのに……)


連行していた男が動揺し、手を離す。

セリナはそのまま地面に座り込む形になり、震えるふりをして身体を小さく丸めた。


「ひっ……な、なに……!?」


だが、内心では明確に“しょんぼり”していた。


(情報、あと三層分くらい取り損ねたじゃない……。せつな様に報告する内容、薄くなるじゃん)


(ま、でも……助かっちゃうんだもん。喜ばなきゃ、かな?)


救助の足音が確かに迫ってくる。

そして同時に、囚われていた冒険者たちが歓声を上げ始める。


「来てくれた!ギルドだ!」「た、助かったんだ……!」


セリナはその中心で、仮面の奥からため息まじりに微笑む。


(……ありがと。でも今度は、もっとじっくり潜らせてね)

今回は、セリナが囚われた中で情報を拾い、ついに“選別”という核心へ迫ろうとする場面でした。

ですが――そこに届くのは、仲間たちの足音。

助けに来てくれたのは間違いなく“希望”ですが……セリナにとっては“ちょっと惜しかった”ようで(笑)

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