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【完結済】堕神ノ書 〜異界支配の始原〜  作者: せつな
第二章【仮面の潜入者】
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【気づいた者たち/影の先へ】

【気づいた者たち】

陽が落ち、街のギルドは薄暗い光に包まれていた。


酒場では小競り合いや賑やかな笑い声が響く中、奥の報告カウンターにひとりの少年が駆け込んできた。


「……これ、見てください! 西門の街道沿いで拾いました! 誰かの落とし物、じゃないと思います!」


手にしていたのは、小さな薬草の切れ端と、銅片の仮登録証の一部。


だが、その端には――《→=≫》

冒険者間で密かに伝わる“危険符号”が刻まれていた。


受付嬢の顔色が変わる。


「……これ、“連行印”じゃない……? まさか、また……」


すぐさま、奥の詰所へ駆け込む。


間もなく、数名の中堅冒険者たちが呼び出される。

剣士、弓使い、魔導士――どれも一線級ではないが、実戦経験は十分。


「場所は西門から街道を外れた先……印の痕跡は、新人の登録証と一致しています。

午前中に登録した“セリナ”という子。西門通過記録とも一致しました」


「最近、“消える新人”の噂がまた増えてる。無関係とは思えないな……」


ギルド長代理の青年が、静かに立ち上がる。


「いいか。これは“公式な討伐依頼”じゃない。証拠も不十分で、正式な捜索は通らない。

だから……あくまで、“仲間を心配してる仲間として”行動するだけだ」


剣士が無言で剣帯を締め直し、弓使いが矢筒を確認する。


魔導士の少女が静かに口を開いた。


「その子、怯えた目で“がんばります”って言ってたって、受付の子が……」


全員が、わずかに俯いた。


そして。


「……誰かが、気づいたんなら。応えなきゃな、俺たちが」


誰かがそう言った。


すぐに、四人の冒険者が西門に向けて静かに動き出す。


武装は軽装。

物音を立てず、でも迅速に。

月明かりに照らされて、彼らの背中は小さくも確かに――“希望”の形をしていた。





【影の先へ】

深夜、森の入り口。

西門から伸びる街道の先――そこに、四つの影がひっそりと佇んでいた。


「……ここか。あの子が通ったはずの道」


先頭を歩く剣士が、低く呟く。


ギルドの仮登録情報と通過記録、それに“危険符号”の痕跡から割り出されたルート。

その地点には、荷馬車のわずかな轍跡と、薬草に混じるように落とされた布切れがあった。


「……これ、“香草の欠片”だ。午前中の採取依頼で使ってた素材。意図的に……?」


「うん。これ、撒いてある。歩きながら、誰にも気づかれないように」


弓使いの青年が指先でそれを摘み上げると、微かに乾いた匂いが漂った。


「この布も、登録証と同じ繊維。間違いない、“彼女”が残した痕跡だ」


魔導士の少女がそっと頷く。


「西門から連れ出されたあと……わざと、足取りを残してる。

捕らわれながらも、誰かに気づいてほしくて……」


「……だったら、応えないとだな」


剣士が言うと同時に、一行は荷馬車の跡を追って森へと踏み込んでいく。

光を使わず、足音も最小限に。

それでも、確かに“気配”だけは空気に残る。


そして――


それは、確かに、届いた。


アジト・地下隔離区画。


冷たい石床に腰を下ろし、セリナは瞼を伏せていた。


演技の中に沈む仮面の少女。

囚われた者の震える呼吸を真似ながらも、

その感覚だけは、鋭く周囲を探っていた。


(……っ)


一瞬、微細な魔力の揺れ。


それは敵のものではない。

殺意も支配の意志もない、柔らかで穏やかな――


(……!)


遠い、遠い。けれど確かに、“外の気配”が、森の先からじわりと広がっていた。



誰も気づかぬよう、ほんのわずかに口角を上げて――


セリナは、また“怯える仮面”を完璧に被り直した。


(さあ、ここからが本番よ)


今回は、セリナの痕跡に“気づいた者たち”が動き出す回でした。

証拠も、命令も、何もない。けれど“あの子を見捨てたくない”――そんな小さな想いから、確かに街の灯はともります。

そしてその灯は、仮面の少女に届きました。

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