【気づいた者たち/影の先へ】
【気づいた者たち】
陽が落ち、街のギルドは薄暗い光に包まれていた。
酒場では小競り合いや賑やかな笑い声が響く中、奥の報告カウンターにひとりの少年が駆け込んできた。
「……これ、見てください! 西門の街道沿いで拾いました! 誰かの落とし物、じゃないと思います!」
手にしていたのは、小さな薬草の切れ端と、銅片の仮登録証の一部。
だが、その端には――《→=≫》
冒険者間で密かに伝わる“危険符号”が刻まれていた。
受付嬢の顔色が変わる。
「……これ、“連行印”じゃない……? まさか、また……」
すぐさま、奥の詰所へ駆け込む。
間もなく、数名の中堅冒険者たちが呼び出される。
剣士、弓使い、魔導士――どれも一線級ではないが、実戦経験は十分。
「場所は西門から街道を外れた先……印の痕跡は、新人の登録証と一致しています。
午前中に登録した“セリナ”という子。西門通過記録とも一致しました」
「最近、“消える新人”の噂がまた増えてる。無関係とは思えないな……」
ギルド長代理の青年が、静かに立ち上がる。
「いいか。これは“公式な討伐依頼”じゃない。証拠も不十分で、正式な捜索は通らない。
だから……あくまで、“仲間を心配してる仲間として”行動するだけだ」
剣士が無言で剣帯を締め直し、弓使いが矢筒を確認する。
魔導士の少女が静かに口を開いた。
「その子、怯えた目で“がんばります”って言ってたって、受付の子が……」
全員が、わずかに俯いた。
そして。
「……誰かが、気づいたんなら。応えなきゃな、俺たちが」
誰かがそう言った。
すぐに、四人の冒険者が西門に向けて静かに動き出す。
武装は軽装。
物音を立てず、でも迅速に。
月明かりに照らされて、彼らの背中は小さくも確かに――“希望”の形をしていた。
【影の先へ】
深夜、森の入り口。
西門から伸びる街道の先――そこに、四つの影がひっそりと佇んでいた。
「……ここか。あの子が通ったはずの道」
先頭を歩く剣士が、低く呟く。
ギルドの仮登録情報と通過記録、それに“危険符号”の痕跡から割り出されたルート。
その地点には、荷馬車のわずかな轍跡と、薬草に混じるように落とされた布切れがあった。
「……これ、“香草の欠片”だ。午前中の採取依頼で使ってた素材。意図的に……?」
「うん。これ、撒いてある。歩きながら、誰にも気づかれないように」
弓使いの青年が指先でそれを摘み上げると、微かに乾いた匂いが漂った。
「この布も、登録証と同じ繊維。間違いない、“彼女”が残した痕跡だ」
魔導士の少女がそっと頷く。
「西門から連れ出されたあと……わざと、足取りを残してる。
捕らわれながらも、誰かに気づいてほしくて……」
「……だったら、応えないとだな」
剣士が言うと同時に、一行は荷馬車の跡を追って森へと踏み込んでいく。
光を使わず、足音も最小限に。
それでも、確かに“気配”だけは空気に残る。
そして――
それは、確かに、届いた。
アジト・地下隔離区画。
冷たい石床に腰を下ろし、セリナは瞼を伏せていた。
演技の中に沈む仮面の少女。
囚われた者の震える呼吸を真似ながらも、
その感覚だけは、鋭く周囲を探っていた。
(……っ)
一瞬、微細な魔力の揺れ。
それは敵のものではない。
殺意も支配の意志もない、柔らかで穏やかな――
(……!)
遠い、遠い。けれど確かに、“外の気配”が、森の先からじわりと広がっていた。
誰も気づかぬよう、ほんのわずかに口角を上げて――
セリナは、また“怯える仮面”を完璧に被り直した。
(さあ、ここからが本番よ)
今回は、セリナの痕跡に“気づいた者たち”が動き出す回でした。
証拠も、命令も、何もない。けれど“あの子を見捨てたくない”――そんな小さな想いから、確かに街の灯はともります。
そしてその灯は、仮面の少女に届きました。




