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【完結済】堕神ノ書 〜異界支配の始原〜  作者: せつな
第二章【仮面の潜入者】
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【静かなる連行/沈黙の檻】

【静かなる連行】

月は雲に隠れ、森の中は闇の帳に包まれていた。

荷馬車の車輪が、湿った地面を鈍く軋ませながら進んでいく。


セリナは拘束されたまま荷台の隅に座らされ、身体を小さく震わせていた。

仮面の下、その目だけがわずかに揺れている。


「……怖い……どこに、連れていかれるの……っ」


震える声。

擦れた呼吸。

怯える少女を装うには、どれも申し分ない“演技”。


(……ふふ、最高。こんなに堂々と潜入できるなんて、普通じゃ味わえないわ)


縄で動きが制限された手首の間から、

彼女は少しずつ、草の繊維で作られた小片を落としていく。


《残響標》――通称、“街灯符”。

弱い香りと目印を持つ、追跡用の視認式痕跡。


(これで、通った道を見つけやすくなる。せつなやじゅぴには見えなくてもいい。

誰かの目に止まれば――“助けたい”と思う人の希望になれる)


「……うぅ……いたい……」


顔を伏せ、膝を抱え込むようにして震えてみせる。

その肩に、ひとりの女性がそっと触れてきた。


「……だ、大丈夫、ですか……?」


かすれた声。

恐怖と疲労のにじんだ顔。

その少女も、セリナと同じく捕らえられた“冒険者”の一人だった。


「こ、こわいですよね……。私……まだ、駆け出しで、こんなの初めてで……っ」


「……わたしも……はじめて、です……」


震えながら、でもどこか冷静に相手の情報を探るセリナ。


(言葉の端にある訛り、装備の質、所持品の数と配置。

所属ギルドは……“白月の刃”か。あそこ、治安系の依頼中心のはず)


ほかにも、数名の男女が同じように囚われている。

一様に目を伏せ、怯え、震えていた。


(……この人数……単なる“身代金目的”じゃない。

捕らえてから何かを“する”前提で動いてる)


「だ、だいじょうぶ……みんな、きっと助けてくれる……から……」


そう言って少女の手をそっと握る。


仮面の下のセリナの表情は――演技の微笑みを浮かべながら、

内心、静かにぞくりと背筋を震わせていた。


(怯え、縋られ、涙を見せられる……仮面の奥で、笑いが込み上げる)


(仮面がなかったら、きっと笑いが止まらないわね)


そのとき――馬車がゆっくりと止まった。


「着いたぞ」


低く、無機質な男の声。


扉が開かれ、冷たい夜風が流れ込む。

見上げた先には、重厚な石造りの門。

黒い金属で縁取られた建物の輪郭が、月明かりに浮かんでいた。


(……ここが、アジト。ちゃんと“中枢”っぽい建物ね)


「降りろ。大人しくしていれば、痛い思いはしない」


そう言われて、一人、また一人と引きずり降ろされていく。


セリナは最後まで、怯えたままの“少女”を演じきった。


だが、仮面の奥の目は――

冷たいほどに静かで、研ぎ澄まされていた。


(さあ、そろそろ見せてちょうだい。“あなたたちの本性”)




【沈黙の檻】

黒い石造りのアジトは、地上から見えるよりもずっと広く、地下へと深く続いていた。


セリナは他の囚われた者たちとともに、薄暗い通路を無言で連行される。

獣避けの香と、土の冷たい匂い。足音以外、なにも響かない。


(……構造は縦型。中心に魔力障壁、通路は一方通行。

この構造……逃げにくく、外からも見つかりにくい造り)


冷静な思考とは裏腹に、セリナの肩は小さく震えていた。


「……や、やだ……たすけて……」


少女のような声で、喉を震わせる。

隣の女冒険者がまたそっとセリナの手を握ってくる。

怯えるその仕草を、セリナはそっと受け止める。


(ごめんね。でも、あんたのその手……情報源として役に立つのよ)


やがて、一行は小さな監房のような石室に押し込まれた。

格子も、扉もない。ただ、出ようとすれば“魔力障壁”が起動する作り。


「しばらく静かにしてろ。選別は順番だ」


扉が閉まる。

闇と静寂が満ちる。


誰もが沈黙し、時折すすり泣く声が漏れる中――

セリナだけが、静かに“耳”を研ぎ澄ませていた。


(……っ)


――気配が、あった。


ここからずっと西……山をひとつ越えた、さらにその奥。

数人規模の強い魔力反応。

しかも、均一に散っている。


(……気配。魔力が均等に散ってる――展開型の布陣。来てる、街の冒険者たち)


セリナは、心の奥でふっと笑った。


(気づいたのね、あたしの痕跡。ちゃんと届いてる)


(それに……たぶん、じゅぴも見てるよね。……ふふ)


彼女は仮面の奥で、ほんの一瞬だけ目を閉じた。


涙を流す“ふり”をして――

その瞳の奥には、確かな安堵と、高揚があった。


(ここからは、“耐える”時間。私は何も知らない少女。選別される弱い冒険者のひとり)


(でも、その先に――全部、暴いてやる)


小さく、目元を拭うふりをしながら。

セリナは再び、“演技”を完璧に張り直した。


そして、救助が来る“そのとき”まで――仮面を脱ぐつもりは、なかった。

今回は、ついにセリナが敵のアジトに“連行”される回でした。

けれど彼女は怯えるだけの少女ではなく、仮面の下で冷静に観察し、痕跡を残し、救助の布石を打っていきます。

演技しながらも、どこか楽しげな彼女の本音――

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