【玉座の支配者/世界の正体】
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ネザリア城の最上階――
誰もいない玉座の間に、ただひとつの足音が響く。
せつなは玉座の傍を離れ、窓際の広いバルコニーへと歩いていた。
冷たい風が吹き抜け、黒のマントを静かに揺らしていく。
眼下に広がるのは、どこまでも続く赤褐色の大地。
遠く霞む山脈。小さな森の影――
確かに《Ark Chronicle Online》で見た風景に似ている。
だが、それは“似ている”だけだった。
「……ここは、どこだ」
ぽつりと呟く。誰に向けたわけでもない、心の声。
「《Ark Chronicle Online》……だったはずだ。
だが、あれはもう“サービス終了”した。ログアウトもなかった。
0時を過ぎても暗転せず、気づけば……ここにいた」
まるで意識ごと“こちら側”へ引きずり込まれたような感覚。
これはただのログインではない。
肉体すら、感覚すら――完全に、この世界に存在している。
「……リアルの俺は、どうなった。
PCの前に座ったままか。倒れてるか……それとも、もう……」
冷静な表情の裏に浮かぶのは、静まり返った現実の部屋。
起動しっぱなしの端末、閉ざされたカーテン、誰にも触れられていない携帯電話。
(……いや、思考が逸れたな)
頭を振る。目を空へと向ける。
夕焼けの光は、現実にはない奇妙な赤を帯びていた。
「……物理法則も違う。
魔力濃度、光の屈折、音の伝達。どれも再現性が高すぎる。
“ゲーム”としては異常な精度だ」
そして何より――
NPCだったはずの存在たちが、自我を持ち、意志を持ち、記憶を保持している。
「じゅぴも……リィナも……セリナも。
“従っている”のではない。“俺を選んでいる”」
なぜ、俺だけが“プレイヤー”のままなのか。
なぜこの“構造”に、自分がいるのか。
再び、玉座の間に戻る。
そのとき――
空間に淡い光が灯った。
魔力の軌跡が空に描かれ、小さな幻影ウィンドウが開く。
『……《幻響連絡》――せつな様へ』
「……来たか」
せつなは玉座へと戻り、肘を置くと同時に、幻影ウィンドウを指先で軽く撫でた。
「……聞こえている。状況を報告しろ、セリナ」
ウィンドウに映るのは、石造りの一室。
簡素な木製のベッドと石壁。ギルド寮の個室だとすぐに分かった。
セリナは膝をつき、頭を垂れていた。
仮面越しの声とは違い、その声音には、どこか安堵がにじんでいる。
『街への潜入および仮登録、完了。現在はギルド寮にて待機中です』
『初依頼“薬草採取”にて銅片23枚を獲得。
報酬の単価、物価との比較により、この世界における通貨価値は、
ゲーム時代の【C:銅貨】とほぼ一致する可能性が高いと判断』
『生活コストは、およそ1日10〜12銅片。
宿屋利用の場合、寮の倍以上の支出が必要となるため、
潜入継続を考慮し、寮滞在を選択しています』
『また、街内部において“行方不明事件”、“魔導痕”、“情報屋の失踪”などの情報を確認。
それぞれ断片的ながら、住民の会話や空気から“検閲”や“抑圧”の存在が推察されます』
『以上、現時点での進捗報告となります』
「……よくやった。順調だな」
『……ありがとうございます、せつな様』
通信が切れる。
ウィンドウが音もなく消えると、玉座の間には再び静けさが戻っていた。
せつなはゆっくりと背もたれに身を預け、瞳を閉じる。
「……仮面の中に、ほんの少しだけ“甘さ”があったな」
そして、わずかに口元を緩める。
「いいぞ――そのまま世界を掌握しろ。俺の影として、“本物”になれ、セリナ」
せつなの視点で描かれる“世界の正体”と、セリナからの初報告。
それぞれが真剣に、この新たな現実を“本物”として受け止めている様子が見えてきます。




