【ネザリア城/主なき玉座と二人の影】
セリナの姿が転移の光と共に消えたあと、玉座の間には、静けさが戻っていた。
だがそれは決して、無の沈黙ではない。
「――魔導通信ノード、起動完了。街外周の浮遊監視眼ユニット、現在40基稼働中。
魔力干渉はゼロ。都市領域は依然として封鎖中、反応なしっす」
情報操作卓の前にいるじゅぴが、指先で魔導パネルを操作しながら報告する。
背後では、淡い光を帯びた魔法陣が次々と浮かび上がり、淡く脈動していた。
「セリナの魔力波長、記録完了っす。もし危険信号を検知したら、即座に回収に向かう態勢でいくね、せつな♡」
せつなは玉座から立ち上がり、ゆっくりと階段を下りながら指示を出す。
「情報部門と防衛部門に通達しろ。セリナが潜入している間、外への露出は最小限。
監視網の構築は続けろ。ただし、“気づかれるな”」
「了解っす♡ じゃ、これからじゅぴの“ステルスモード”全開で動くよ〜!」
「……ふふっ。あいかわらず、無駄にうるさいよねぇ、じゅぴ」
そのやり取りの間に、玉座の後方の柱の影から、静かにもうひとつの影が現れる。
漆黒のメイド服の裾が揺れ、紅い瞳が光を受けた。
「リィナ」
名を呼ばれると、少女はすっと膝をついた。
「せつな。あの子、ちゃんと演じてたよ。……でも、ちょっとだけ演技、無理してる」
「……そうか」
「心配なんだ……わたしじゃない、あの子のこと気にしてるの、変?」
その声は、甘く蕩けるようで――同時に微かな嫉妬の熱を含んでいた。
「気にしておけ。お前たちは“同格”だ。
互いを理解して、互いを監視していろ」
「……うん。せつなが言うなら、がんばっちゃうよ。
でも……どっちがせつなの隣にふさわしいかは、ちゃんと証明しちゃうからね」
リィナがふわりと微笑む。
その笑みには、無表情な仮面の裏にある情熱が、わずかに滲んでいた。
「はーいはーい、そろそろ張り合うのやめてくれるっすか〜?
この作戦、“静かに溶け込む”がテーマなんすよ〜?」
じゅぴが軽口を叩くが、リィナは冷たく、ひとこと。
「じゅぴは喋りすぎ。……それに、ちょっと浮いてる」
「はぁ!? う、浮いてないっすよ!? じゅぴは完全に計算された可愛さと機能美の集合体っす!」
「浮いてる。目障り。耳障り」
「くっ……この影メイドぉ……!」
「――やめろ」
せつなの一言で、二人の空気がぴたりと静止する。
リィナは沈黙を保ち、じゅぴは頬をふくらませたまま肩をすくめた。
「セリナが帰還するまで、城の統制はお前たちに任せる。
何かあれば、直接報告しろ」
「了解っす♡ じゅぴ、せつなのために、完っ璧に支えるっすから♡」
「……わたしも。せつなの影として、ずっと隣にいる。
セリナに、隙なんて見せないよ」
玉座の間には、再び静寂が戻る。
だが、その中心には――主と、ふたりの少女。
支配の城は、今も静かに蠢いていた。
ネザリア城側の動きにフォーカスした回でした。
じゅぴとリィナ、それぞれの想いが垣間見える中、せつなは着実に“掌握”へと歩を進めています。




