【仮面の潜入者/情報と銅片の価値・ギルド寮の片隅で】
【仮面の潜入者/情報と銅片の価値】
薬草鑑定を終えたセリナは、受け取った小袋を抱えたまま、夕暮れの街へと歩き出した。
通りには露店が並び、煙を立てる焼き串や、香草を煮込んだスープの香りが漂ってくる。
セリナは足を止めず、すれ違いざまに値札を目で追う。
――焼き串1本、銅片1枚。
――薄焼きパンと干し肉セット、銅片2枚。
――果実水1杯、銅片1枚。
(……ふぅん。だいたい1C=1銅片って考えてよさそうね)
ゲーム時代と完全に同一ではないが、少なくとも“生活水準の価値感”はほぼ同じ。
庶民層が払える価格帯、支援金の意味も見えてくる。
次に、宿屋。
(せっかくだし、宿の相場も見ておきましょう)
街の中央通りにある小さな宿屋の看板を見上げ、中を軽く覗く。
「素泊まりで、銅片10枚。
食事つきなら14枚、朝もつけるなら18。
ベッドは個室、鍵付きです」
受付の女性が穏やかに言った。
(高っ……いや、情報としてはありがたいけど、今の所持金で泊まり続けるには無理があるわね)
一礼して店を後にし、セリナはギルドの方角へ踵を返す。
(ギルド寮があるって言ってたし……今日はそっちを使わせてもらいましょう)
【仮面の潜入者/ギルド寮の片隅で】
ギルドの裏手にある“冒険者専用寮”は、石造りの簡素な建物だった。
木製のベッドに小さな机、共同の風呂場と食堂。
鍵はないが、最低限の“安心”は守られている。
「セリナちゃん、ちょうど食堂で夕食出てるわよ。先に荷物置いてからでも大丈夫」
寮母らしき女性がそう声をかけてくれる。
セリナは礼を言い、部屋に荷物を置いてから食堂へ向かった。
食堂は、簡素ながら温かい雰囲気に満ちていた。
木のテーブルに数人ずつ腰掛け、食器を鳴らしながら談笑している。
セリナは壁際のテーブルに静かに座ると、黙ってスープとパンの夕食を受け取った。
(……こっちは銅片2枚分くらいってとこね。食事も価値の目安になる)
パンをちぎり、スープを口に運びながら、周囲の声にそっと耳を傾ける。
「……なあ、最近、西門のあたりでまた行方不明が出たってよ」
「また? こないだのは獣人がらみって話じゃなかったか?」
「いや、それがな……遺体が、見つからねえんだと。物もそのまんま残っててよ……」
セリナはパンを口に含んだまま、視線を動かさず聞き続ける。
「んでよ、妙なのが……“魔導痕が残ってた”らしい。
まるで誰かが痕跡ごと消そうとしたみたいに、周囲だけ歪んでたって話でさ」
「魔導痕……? 上位の術者の痕跡ってことか?」
「さあな。ただ、普通の盗賊じゃねえのは間違いねぇよ」
別のテーブルでも、小さな話題が交わされている。
「そういえば、ギルドの情報屋、最近ひとり辞めたらしいな」
「マジか。あの人、ずっとここで仕事してたのに」
「なんか……“頭が痛い”って、急に何も言わずにいなくなったらしい」
(……不穏、ね)
街の外。行方不明。魔導痕。情報屋の離脱。
セリナの中で、断片が静かに積み重なっていく。
仮面の下、紅い瞳がわずかに揺れた。
(せつな様に、報告しないと……)
スープを最後まで飲み干し、セリナは静かに立ち上がった。
通貨・食費・宿代……生活感のある情報を集めながら、街の“違和感”も拾っていくセリナ。
日常の裏側に忍び寄る不穏な影が、じわじわと見え始めました。




