【過剰納品】
【仮面の潜入者/過剰納品】
夕暮れ前。
セリナは街へ戻り、ギルドの扉を静かに押し開けた。
内部はやや騒がしく、仕事を終えた冒険者たちが報告や報酬の受け取りに集まっている。
カウンター前には、順番待ちの小さな列。
(……先に鑑定だけ、済ませておきましょう)
セリナは混雑を避け、受付横に設けられた“鑑定窓口”へと向かった。
そこには若い女性の鑑定士がひとり、魔導器具と記録用紙を前に座っている。
「薬草の納品ですか?」
「……はい。ヒリ草、です」
静かに袋を下ろし、革ひもを解いて口を開くと――
淡い紫色の薬草が、ふわりと机の上に広がった。
「……えっ……!? えっ、これ、全部!?」
鑑定士の声がひときわ高く跳ね上がる。
目をぱちくりさせながら、慌てて鑑定札と計測道具を手に取り、草の一束一束を確認し始めた。
「ちょ、ちょっと待ってくださいね……これ、A評価……こっちも……え、S評価も混じってる!?
数……二十二束!? 信じられない……!」
「……たくさん生えてたから……」
セリナはあくまでおとなしく控えめに言う。
けれど内心では、さすがに少し焦っていた。
(……ただ見えてる薬草を採取していただけなのに……まさかそれで目立つなんて)
実際、セリナは目に入った薬草をひとつずつ、効率よく丁寧に集めただけだった。
人より視野が広く、色彩識別も優れているだけで――特に狙ったわけではない。
「……あの、ヒリ草って……こんなに生えてないものなんですか?」
「えっ!? ……あ、ええ、そうですよ!? 普通はせいぜい10束採れたら御の字で……それに、こんな品質、わたしでも数ヶ月ぶりに見ました……!」
「……そうなんですね」
(やば……知らなかった……ほんとにちょっと焦るんだけど)
セリナは表情を変えず、静かに頷く。
だが背中には、ほんのり冷や汗が滲んでいた。
やがて鑑定が終わり、鑑定士が感心しきった顔で小袋を差し出す。
「こ、こちらが報酬です!
銅片8枚の基本報酬に加えて、品質評価加算と、鑑定担当からの“成果推薦”分……合計、銅片23枚になります!」
渡された小袋の中で、鈍い金属音がじゃらりと鳴る。
計23枚の銅片――新人が一日で稼ぐには、明らかに多すぎる額だった。
(……ゲームの頃でいう23C。ゲーム時代と価値が一緒なら、薬草採取にしてはずいぶん稼いじゃったわね)
受付の女性や、隣の職員たちが「すご……」「新人って聞いてたけど……」と小声でざわつき始める。
セリナはそれを無視するように、そっと小さく頭を下げた。
「……ありがとうございます。助かります」
「いえいえっ、本当に素晴らしかったです!
また何かあれば、ぜひご協力お願いしますね!」
周囲の好意的な視線と、少しだけ高まった注目。
(……うん、次からはもう少し加減しよ)
そんな反省を、セリナは仮面の奥でこっそり呟いた。
それでも――ほんの少しだけ、口元がほころぶ。
(せつな様に報告したら……きっと褒めてもらえるかな)
静かに、静かに。
セリナは今日一日の“成果”を抱えて、ギルドの片隅をあとにした。
やりすぎ注意!? 無自覚に高品質・高数量で“過剰納品”してしまうセリナ。
情報収集と調査のついでであっても、きっちり結果を出してしまうあたり、さすがです。




