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【完結済】堕神ノ書 〜異界支配の始原〜  作者: せつな
第二章【仮面の潜入者】
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【薬草と観察の午後】



東門をくぐる前、セリナは歩を緩め、門番のひとりにそっと頭を下げた。


「……昨日は、ありがとうございました。通してもらえて、助かりました」


相手は、昨日と同じ初老の門番。

セリナの顔を見て、はっとしたように目を細める。


「おお、おまえさんか。無事だったかい。

……ああ、いや、礼なんていらん。困ってる人間を助けるのは、当然のことさ」


そう言って、気恥ずかしそうに頭を掻いた。


「今日は、どうしたんだ? もう街を出るのか?」


「はい。ギルドで、薬草の採取依頼を……東の丘まで、ヒリ草を集めに」


「ああ、あれか。あのあたりなら安全だし、ひとりでもなんとかなるな。

……お、ちょっと待て、そうだそうだ。ヒリ草な、摘み方にコツがあるんだよ」


門番はそう言うと、自身の腰にぶら下げたナイフをひょいと抜き、地面の草をちょんちょんと突く。


「こうやって、根元を斜めに切るといい。上から引っこ抜くと中で折れて、品質が落ちちまう。

鑑定評価で損するぞ?」


「……なるほど。ありがとうございます。気をつけます」


「はっはっは、あとは袋に詰めるときも、できるだけ潰さないようにな。

……応援してるぞ、セリナちゃん。立派な冒険者になれるといいな」


「……はい。がんばります」


そう言って一礼するが――

その背を向けた瞬間、セリナの瞳はほんのわずかに細められる。


(ちょろいおじさんね。でも、情報はありがたくいただくわ)


演技も挨拶も完璧にこなし、セリナは東の丘へと歩を進めた。


草原に差し掛かると、遠くにうっすらと波打つ丘陵地帯が見えてくる。

風が乾いていて、草が微かに揺れている。

魔物の気配は――なし。だが、索敵は怠らない。


セリナは薬草袋を軽く背負い、しゃがみ込みながらあたりを見渡した。


(……視界は良好。地形はゆるやかな傾斜で、遮蔽物少なめ。

遠くの岩陰に人影……多分、同じく採取系の冒険者ね)


(魔物の反応は……いまのところ、弱い野生動物だけ。

けど、地面の爪痕……これ、昨日か一昨日くらいかしら)


索敵魔法こそ使わないが、視覚・聴覚・空気の動き――すべてを通して情報を拾う。

任務とは別に、彼女は今、この世界の“外”を調査していた。


とはいえ――


「……これが、ヒリ草……っと。根元を斜めに、ね」


ちゃんと依頼も忘れない。

門番に聞いた通り、斜めにナイフを入れて、丁寧に薬草を収穫していく。


(……土が柔らかいから作業しやすいわね。気候も安定してるし、魔力の流れも穏やか)


(せつな様もこの土地のエネルギー構造、たぶん気に入ると思う)


……気づけば、時間は小一時間ほど経っていた。

背負った薬草袋は――ずっしり重い。


(……あら。採りすぎた?)


知らず知らず、セリナの手は止まることなく動いていた。


索敵のついで。

土地の調査のついで。

そのつもりだったのに――仕事も、完璧にこなしてしまう。


(ま、いっか。品質評価が上がれば、報酬も増えるし。街の流通データも見えてくる)


風に揺れる草原の中。

仮面の少女は、小さく満足げに息を吐いた。



任務と調査と、ついでに仕事も完璧にこなしてしまうセリナ。

索敵しながら薬草を回収する様子は、まるでスパイ兼職人。

無自覚に“有能”すぎる彼女の初依頼、その成果がどう出るか……次回へ続きます!

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