【降りゆく旗/西方議会の決断】
第五章開幕です!!!
引き続き皆様、よろしくお願いいたします。
ヴァルグレイス中央議会庁舎――議事堂 第三審議室
重厚な魔導ランプが照らす空間に、深刻な報告が響き渡っていた。
「……繰り返す。神聖連合は、事実上“滅亡”しました。中枢神殿群の崩壊、巫女の消失、幹部の生死不明。残存勢力による抵抗の兆しもありません」
「本部が……一夜で?」
「数日です。だが、“反撃も警告もなかった”という点が重要です」
諜報局長オルテ・ディランの言葉に、議場がざわめく。
「おい、それはつまり……先制された、ということか?」
「いや、“始まる前に終わった”と見るべきだろう」
誰かの呟きが、議場を一瞬凍らせた。
「そんなバカな話があるか……!」
「ある。“ネザリア”だ。あの国は常識に従っていない。神託にさえ、従わなかった」
「報告によれば、“漆黒の王”を中心としたたった三人の部隊が、神聖連合全域を制圧したとある。通常戦術ではない。存在そのものが異常だ」
「っ……」
重苦しい沈黙の中、マルセル議長が静かに立ち上がる。
「――ネザリアは、もはや“国”ではない。災害だ。神話と理の境界を曖昧にする“現象”だ」
「……ならばどうする? 対話は可能なのか?」
「否。あれは、“道理では動かない”。だが、我々は“従う”という道を選べる」
「……っ!」
その瞬間、議場の空気が裂けた。
「馬鹿を言うな!!」
声を張り上げたのは、軍部代表の老将フィレイ・ドラン。
「属国だと!? ヴァルグレイスが!?」
「誇りを捨てて生き延びろと? 我らは情報国家だぞ! 言葉で商い、交渉で国を繋いできた。今更、力に屈してどうする!」
「今ここで従えば、我々の全てが“無価値”になる!」
「フィレイ殿、それは違う」
オルテが静かに言葉を返す。
「情報には“価値”がある。だが――“生存”が保証されてこそだ」
「っ……!」
「今、ネザリアに逆らえば、この国は一夜で消える。神聖連合がそうであったように」
重ねるように、若き議員の一人が口を開いた。
「私たちは、敗北を選ぶわけではありません。“吸収”される前に、“組み込まれる”道を選ぶのです」
「これは属国化ではありません。“共存”という枠組みの中に、秩序ある管理体制を築く協定です。
貴国が望んでいるのは、服従ではなく、“秩序を壊さない構造”だと理解しています」
「我々にはそれができる。だから生き残るのです」
「ぬるい理屈だ!」
「……誇りで民は守れません。必要なのは、“続く選択肢”です」
議場が再びざわつく中、マルセル議長は静かに宣言する。
「――我々は使節団を派遣し、ネザリアに“保護関係の締結”を正式に要請する」
「我々は、従属するのではない。“盾”となるのだ。“刃”の鞘として生きる。それが、この国の“情報戦略”の最終到達点だ」
「反対する者は多いだろう。だが、私はこの国を“未来”へ渡したい」
その言葉に、揺れていた議場は――やがて静かに収束していった。
ヴァルグレイス。
かつて情報と商業で栄えたこの国は、静かに一つの“降伏”を選ぶ。
だがそれは、ただの敗北ではない。
「未来を繋ぐための――服従という名の戦略」
そう記される日が、いつか訪れるのかもしれない。




