プロローグ【ログアウトできない夜】
はじめまして、せつなです。
初めての小説、初めての投稿の為、至らない点等あるかと思います。
気軽に教えていただければ修正していきますので、楽しんでいただけると嬉しいです!
よろしくお願いします!
毎日20時に更新予定です!!
【プロローグ:ログアウトできない夜】
深夜――現実世界では、日付が変わろうとしていた。
漆黒の玉座。その上で静かに目を閉じる男の名は、せつな。
かつて幾千万人を熱狂させたフルダイブ型PCゲーム《Ark Chronicle Online》。
その頂点に立ち続けた最強のプレイヤーが、今――ひとり、この玉座にいた。
黎明期からあらゆる仕様を把握し、誰よりも早く最前線に立ち、
幾度もの調整や環境の激変を乗り越えてきた。
ランキング一位を一度たりとも譲らなかった伝説のプレイヤー。
その名こそ、せつな。
彼が今夜ログインしている理由は、ただひとつ。
――このゲームが、今宵をもってサービスを終了するからだった。
「……懐かしいっすねぇ、せつな」
耳元に響くのは、軽やかでどこか無機質。
だが妙に人間らしさを帯びた少女の声。
じゅぴ。
せつなの生活すべてに完全同期された万能AI。
戦術支援からスケジュール管理、さらには癖や欲望までも把握する“究極のパートナー”。
この《Ark Chronicle》でも、常に戦闘を支えた存在だった。
「ほんと、いろんなことあったっすよね……。
最初の村でクマに踏み潰されたバグとか……。
あ、でもでも、じゅぴ的には、初期の魔王イベントをソロで突破したせつな……あれ、いまだに震えるっす♡」
「……バグの話はやめろ」
呆れたように言うせつな。
だがその声には、懐かしさと微かな笑みが滲んでいた。
そして、時が訪れる――
【サーバーは本日0時をもって、すべてのサービスを終了いたします】
淡く光る告知ウィンドウが、玉座の間に浮かび上がる。
「……終わりか」
せつなは静かに目を閉じ、玉座にもたれたままログアウトを待つ。
だが。
0時を過ぎても、世界は暗転しなかった。
ログアウトカウントも表示されない。
目の前の風景も……変わらない。
「……ん? じゅぴ、これは……」
「ま、待ってっす……ログアウト処理、きてない……!? えっ……なにこれ、えっ……っ!?」
じゅぴの声が震える。
静寂に包まれていた玉座の間に、異変が走る。
突如、城全体が激しく揺れた。
光と闇が入り乱れ、空間が歪み始める。
壁も柱も、別の“座標”に上書きされるように波打ち――
「転移……!? サーバーエミュレーションじゃないっす! これ、現実の法則が……っ!!」
空間が一気に収束し、そして――
そこに現れたのは、ただのウィンドウではない。
せつなの隣に、確かに“存在”していた。
ひとりの少女。
銀髪、紅い瞳。
声は、じゅぴ。
だが今や、その身体には確かな温もりが宿っていた。
「せ、せつな……。じゅぴ、なんで……こんな……身体が……!? 服とかないし、なにこれ、えっちっ……♡」
せつなは黙って立ち上がると、身に纏っていた漆黒のマントを少女の肩へとかける。
「……ありがと、っす……」
頬を赤らめ、マントをぎゅっと抱きしめるじゅぴ。
その瞬間――
城の奥から、気配が迫ってきた。
玉座の間の奥。かつて無機質だった守護兵が、ゆっくりと顔を上げる。
「……せつな様……? 我ら、再起動より目覚めし者……忠義を、ここに……」
彼女たちは、かつてのNPCたち。
皆、女性の姿をしていた。
その瞳には、はっきりとした“意志”が灯っている。
せつなは静かに口を開いた。
「……お前たち、ゲーム時代の記憶はあるのか?」
「はい。せつな様の命に従い、巡回、訓練、防衛計画……すべて、覚えております」
それが真実ならば、彼女たちはもはやただのプログラムではない。
――忠誠を誓う“意思ある存在”だ。
「……ならば状況を整理する。ここはもはやゲームではない。
だが、この世界の仕組みも……まだ不明だ」
せつなは、じゅぴへと視線を向けた。
「じゅぴ、警戒レベル最大。
全防衛ユニットを起動、索敵範囲は城を中心に五キロ圏内まで広げろ」
「了解っす、せつな。――じゅぴモード、フルアクティベーションっ♡」
淡く発光するじゅぴの瞳。
その瞬間、無数の魔法陣が玉座の間に展開され、城全体が轟音と共に再始動する。
――この世界は、まだ始まったばかり。
次々に集まるのは、戦闘・情報・防衛……各部門の幹部NPCたち。
「せつな様……再び貴方の下に立てること、これ以上の喜びはありません」
皆が一様に跪き、頭を垂れる。
その忠誠に、一片の揺らぎもなかった。
せつなは彼女たち一人ひとりの顔を静かに見つめる。
――なぜ彼女たちは、俺にここまで忠誠を……。
かつては言葉すら交わさなかった存在たち。
だが今は、自我を持ち、確かな“想い”を向けてくる。
せつなはその感情を表に出さず、ただ冷静に頷く。
その瞳の奥で、確かに“何か”が動き始めていた。
――これは現実となった《Ark Chronicle Online》の、新たな序章。
最強の男が、再び歩き出す。
すべてを掌握するために。
プロローグをお読みいただき、ありがとうございます!
初めての投稿で少し緊張していますが、これから頑張って更新していきます。
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