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クライミング


そうして、今に至る。


わたしが外に出た時には、辺り一面、破壊されたモノ達が散らばっているばかりであった。言うまでもなく、他にも多く発生していたのであろう怪物たちによる被害だ。

全く、世も末だよ。もしかすると本当に、この国が終わってしまうかも知れないよね。あはは。

はは…


…………


さっ、移動しよう。

少し移動したら、まずは売店から貰ってきたミネラルウォーターで口を(ゆす)がなきゃね。虫歯になってしまう。

避難所とかあるのだろうか?ただ、この事態では警察や自衛隊などの組織の武力に頼るしか無さそうなので、警察署や自衛隊駐屯地を目指すべきだろうか?

わたしはスマートフォンを操作する…勿論、周囲への警戒を怠らないよう、壁に背中を付けながら…もう少し情報を集めるために。


警察署はここから近いけど、そもそもあの怪物に対して対抗し()る程の武力が一つの警察署に備わっているのだろうか。1匹や2匹ならまだしも、どうやら他にも沢山いるようだし……(はなは)だ疑問だ。

自衛隊駐屯地はここから遠いけど、『自衛隊は戦力ではない』みたいな御託はともかくとして、武力や戦力で言えばそこが一番心強いだろうか?よく知らないけど。

インターネットで調べてみるに、やはり化け物どもは(おおむ)ね、その体躯(たいく)が巨大であるらしい。

先程、わたし達が…わたしがいたビルの入り口は、ガラスで出来た大きな自動ドアだった。そしてその自動ドアが壊されていたことは確認済みであるため、侵入された経路がはっきりしている。即ち、化け物でも這入ってくることができるサイズの出入り口があったからだ。

いや、もしかすると最初からビルの中にいて、二人を殺した後にガラスを破って出て行ったのかも知れないが…それはこの際考えないものとして。

ならば、もっと頑丈で小さな出入り口しか存在しない建物に鍵を掛けて籠城すれば良いのではないか?


うーん……


いや、いけないな。

どうもわたしは、困難に立たされた時に単独でどうにか解決しようとするきらいがある。

それは、自分のことしか考えていないから?自分しか大切ではないから?うん、実際そうなのかも知れないし、わたしは自分のそういった生き方を悪くは思わないけれど、しかしその生き方に対して、わたしが今考えたことは合理的ではないだろう。

自分のことだけを大切にするために、自分だけで解決に向かおうとするのは合理的ではない。


他の生存者と合流しよう。

まずは仲間を見つけた方が良い。

自分が助かるためには、他者を利よ…他者の力を借りるのが一番である。他者と協力し合うのが最適な手段である。わたしはどうも中途半端で、自分本位な癖して他者との関わりが嫌いなのだが、ここはその(さが)を抑える所だろう。

流石に、他の人類は既に全滅したなどという事は無いだろうし。どこかで他にも、安全な場所に固まって生き延びている人達がいることだろうさ。


そう思い立ったところで、良い情報が入った。

どうやら現在地から程近くに、非公式ではあるが大勢が集まっている避難区域があるらしい。

腐ってもわたしはこの土地の出身であるため、土地勘はある。道に迷うことは無いだろう。


かくして、わたしはスマートフォンをしまい込み、すっかり荒廃した街並みの中を歩き出した。

道端に転がっているモノは、なるべく見ないようにしよう。グロテスクというか、見ていたら気がおかしくなりそうなモノばかりだから。何が転がっているのかは語りたくもない。すぐに忘れたい。

あーやだやだ。

わたしはただ、平穏に暮らしたいだけなのに。

何者からも傷つけられず、誰からも攻撃されず、穏便に生きていたいだけなのに。

どうしてこんな事に。


「…!」

おっと、何か尋常ではない物音が、わたしの前方にある曲がり角の先から聴こえてくる。

音が、近づいてくる。

まずい…身を隠さなければ。早々に変な化け物に見つかって食われてしまったらそれはもうただの脇役だ。主人公を気取る程に自己肯定感がある訳でもないわたしだが、せめて名脇役くらいではありたいので、ここで終わる訳にはいかない。

わたしはすぐ横にあった民家に、忍び足で素早く入り込んだ。より正鵠(せいこく)を期すなら、建物の中ではなく敷地の中に入った。ドアを開けたら音が鳴ってバレるだろうから、民家の庭の辺り…曲がり角から出て来るであろう何かから見えない角度に、素早く入り込んだという訳だ。

「…………」

クルルルという鳴き声のような音と、トスントスンという微妙に変な足音が近づいてくる。


「………………………」


……音は、通り過ぎて行った。

しかしまだだ。まだ出ていかない。ホラー漫画とかでありがちな、やり過ごせたと思って隠れるのをやめたら、立ち止まって気配を消していただけの敵に見つかってしまうみたいな展開は御免である。


「………………………………………」


十分に時間を置いてから、しかし『流石にこんだけ待てばやり過ごせただろ〜』みたいなフラグは立てないようにしつつ、わたしは民家の敷地から出てみると、周囲には何もいなかった。

よし、やり過ごせた。

再び、わたしは避難所を目指す。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



しばらく行くと、横転した自動車…いや、これは最早(もはや)廃車か。横転した廃車がバリケードのように並んだ場所に差し掛かった。

いやあ何だか、普通に考えたら怪物どもにやられた車がたまたま偶然にこうなっただけなのだろうが、今のわたしの精神状態では、誰かが自分を妨害しようとして意図的に並べたんじゃないかと思えてしまう。わたしのネガティヴな性格の弊害である。

とはいえ、車の間を縫うようにすすいっと行けば良いんじゃないかな?個人的にはそういうの、得意だ(人混みを掻き分けて、素早く人混みの中から脱出するのには慣れている)。

そう思ったのだが、やってみるとそうでもないようで、やはりどうしても車を乗り越えていく必要があるようだ……、これは困ったな。


実はわたしは、高いところに登るのが苦手だ。

だって高所恐怖症があるんだもん。もちろん、車一台程度の高さならば発作という程の症状は出ないのだが、それでも何となく億劫である。わたしに言わせてみれば、高い所にいても怖くない人間の方が異常だ。高所から落下するのは危険であり、それを避けるように本能で恐怖心を生じるのは当たり前のことであり、進化の過程でそうなるのは至極当然。だというのに、高所にいて恐怖を感じないなんて異常であり、生物としての欠陥だろう。『高所平気症』とはよく言ったものである。

まあ、登るけどさ。


意を決して車の上に登ったわたしだったが、そこで嫌な予感の通りに、足を滑らせて転落してしまった。帰宅部として4〜5年過ごしてきたわたしは、ちょっと鈍臭いのかも知れない。

不幸中の幸いというべきか、落ちた先は向こう側(行く先側)であったが……

「いててて……くっそー……」

腰を打ったし頭も打った。身体(からだ)のあちこちが痛い。これだから高い所に登るのは嫌なんだ。

幸いにも、骨は折れてないようだ。痛みが長引く感じがしない。結構がっつり打ちつけたので、怪我をしなかったというのはちょっと意外だな。いや、実はまだ自覚症状が出ていないだけで、脳が致命的な損傷を受けている恐れもある。とはいえ、この状況じゃ病院に駆け込んでも仕方ないだろう。


一抹の不安を意識の片隅に追いやり、気を取り直して、わたしは早足で避難所へ急いだ。

空を見上げれば、どんよりと曇った灰色のグラデーションがただ続くばかりであった。


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