抵抗者
「え!?え!?嘘ォ!?なんっ、何で生きてるんだ!?」
力尽きた化け物の口をこじ開けて這い出てきたわたしを目の当たりにして、困惑する自衛官のお兄さん。
『何で』。それはわたしが訊きたいくらいだし、この場合は仕方ないのだが、何気なく失礼なことを言われている点についてはしっかり憶えておくとしよう。
「えー…っと…何が起こったんでしょうか?」
わたしが訊きたいくらいだったので、実際にわたしが訊いてみた。
「いや、こっちが訊きたいよ!」
そりゃそうだ。
「運良く当たらなかっただけなんじゃないですかね…?」
そんなことを言う人が一名いるが、断じてそんなことはない。もう一度確認してみても、四肢も胴体も顔も、やはり傷こそ付いていないけれど、服には穴が空いているため(ちょっと恥ずかしい。変な所に穴が空かなくて良かった)、被弾したことは確かなのだ。
何より、めちゃくちゃ痛かった。小銃で撃たれるのって、あんな感じなのか。当然かも知れないけれど、咬まれるよりも痛い。ショック死するかと思うくらい痛かった。そういう意味では、死の危機に瀕したことには変わりはなかったらしい。
しかし、現にわたしはこうして、健在である。
読んで字の如く、健在。つまり怪我一つしていない状態で、複数人の自衛官に囲まれて、普通に喋ることだってできている。
わたしと自衛官の数人がこの意味不明な状況に狼狽し、状況を呑み込めずにいる中で、一人の年配男性の自衛官が慎重そうに切り出した。
「もしかして、《抵抗者》じゃないか…?」
その一言に、他の自衛官全員の顔色が変わる。
ある者は驚嘆を、ある者は納得を表情に浮かべた。
わたしは問う。
「『ていこうしゃ』…?何ですかその、完全無欠で完璧な漫画家みたいな言葉?」
「いや、定稿者じゃなくてね…」
わたしの問いに、年配の自衛官は頭を掻きながら、悩ましい表情を浮かべて、何から話したものかわからないという風な態度で言葉を紡ごうとしている。
「うーんと……まず君、怪我は無い?」
普通ならばお前は何を言っているんだと言いたくなる程にそんな訳が無い筈なのだが、実際に咬まれた部分や撃たれた部分を確認してみても、確かに怪我は無いのだから仕方ない。
「無い…ですね、はい。何故か」
「そうだよね、あったら普通に立ち上がって喋ったりできないもんね……、うーん、どこから説明したものか……」
説明?
何か知っていることでもあるのだろうか?
包み隠して話そうとするようなら、またわたしのありもしない尋問テクニックで洗いざらい吐かせてやるぜと意気込んでいたのだが、そこで年配の男性自衛官は、
「順を追って説明するよ」
と前置きしてから、一つ、咳払いをした。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「そういえば、自己紹介がまだだったね。私は木吉っていうんだ。よろしく。恐らくこれから、ある程度の付き合いになると思うからね……
「それで本題だけれど、ご存知の通り、昨日の朝から全国…いや全世界で、同時多発的に人喰いの怪生物が発生した。これは良いよね?いや良くはないけど、わかるよね?
「でもね、実はそれだけじゃないらしくて、人喰いの怪生物が現れた少し後から、超常的な異能っていうのかな……、所謂ぅ…そう、特殊能力?特殊能力を持つ人間も各地で現れるようになった。どういう訳か知らないけど、怪生物の発生と同時期に、見計らったようにだ。そういう報告が、稀にとはいえ各地で度々入っているらしい。
「私も最初は、嘘なんじゃないかと陰謀を疑いかけたくらいだけどね、実際に、常識や科学では説明がつかないような不思議な力を持つ人を見たんだっていう話は聞くんだ。例えば、『触れたものを何でも融かす』…みたいなね。
「そして防衛省は、突然現れたこれらの異能を持つ超人達を、《抵抗者》と呼ぶことにした。個人的には、別に『異能者』でも『能力者』でも良いんじゃないかと思うんだけどね……、なんでも、『名前の迫力で威信を集めすぎないように』…だとか、訳の解らない説明を受けたよ。上層部も、変にこだわりがあるのかねぇ。
「それで問題の抵抗者達だけど、彼らに話を聞いてみると、彼らはどうやら生まれた時から異能を持っていた訳ではないらしい。それこそ、能力が発覚したのは怪生物が発生した昨日から今日にかけてだという。例えば君、篠守さんだっけ?篠守さんは、一ヶ月前とか、一年前とかには、普通に怪我をすることがあったんじゃないかい?昨日から今日にかけて、それが突然、怪我をしなくなったのではないかな?
「…やっぱりそうか。ならはっきり言おう。
「篠守さん、君は抵抗者だ。
「抵抗者の異能は多種多様らしいけど、少なくとも怪生物たちに対抗するための戦力になるっていう点では共通しているのだろうという訳で、我々防衛省はこれを保護する方針を採っている。即ち、抵抗者を発見した場合には、速やかに特別保護区域に避難させるようにと。ああ、もう既に他の者から聞いているのかな?そう、その特別保護区域だ。そういう訳で我々には、君を保護する義務があるという訳だ。今から君は、国家の重要人物が集まる特別保護区域に行くことになる。
「ただし、残酷だけれど、これは喜べるような話ではない。つまるところ、君にはこれからあの怪物達と、戦ってもらうということになるんだからね…」




