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其の九 魔窟攻略

 魔窟の中は、ただひたすらに岩の洞窟だった。

 不思議なのは壁にランプが付いている訳でも、発行する石が埋め込まれている訳でも、誰かが明かりを灯している訳でも無いのに、明るいことだ。昼の外ほどではないが、不自由無く歩き、メンバー同士で話し、前方を警戒することに問題はなかった。


「お前がどれだけ事前知識を備えてるかは知らんが、とりあえずボス部屋に行くまでは気を張らなくていいぜ」

「ボス部屋?」

「魔窟攻略ってのは実質、魔窟に巣食うボスを倒すことだ。ボス部屋ってのはそのボスが待ち構えてる空間のことで、魔窟の最奥にある」


 なるほど、分かりやすいシステムだ。


「このレベルの魔窟だったらボス部屋に着くまでに発生する魔物はザコだ。簡単な魔法一つで死ぬ」


 そう話しているうちに、ジャコの「出たぞー!魔物」という声が聞こえてきた。声がした前方を見ると、複数体の人型の魔物が立っていた。各々、歪な形のこん棒を持って、こちらを威嚇しているようだ。

 ゴブリンだ。俺は直感的にそう思った。日本でよく見たビジュアルだったからだ。


「あの魔物の名前はなんだ?」


 そう、ニュートラルに聞くと、ニュートラルは笑いながら


「名前?魔物に名前なんてねぇよ。ましてやあんなザコ魔物にはな」


 と答えた。

 魔物に名前をつける文化は無いのか…魔物といえば、ゴブリンやオーク。そんな名前の魔物を実際に見ることは少し楽しみだったんだけど。

 とはいえ、見た目はほぼゴブリンである。自分の魔法がどのくらい効くのか試してみたいと思っていると、ネトが前に出て言った。


「俺が全部やる!お前ら手を出すなよ!」


 えっ。


「そんな我儘、通用するとでも?」


 ネトを手で押しのけたのはオオイだった。


「私が片付けます。あなたは引っ込んでおいて下さい」


 えっ。


「ああ?じゃあ勝負だなぁ!どっちが多く魔物を殺せるか!」

「いいでしょう。望むところです」


 完全に二人でやる流れだ。他の人のことは見ていない。俺は昔からこういう場面で混ざっていく事が出来ないのだった。

 ニュートラルやジャコも反対することなく、話はボスまでの魔物達はネトとオオイが倒すことで落ち着いた。

 ニュートラルが「ラッキー」と呟いていたのを聞いて、魔物を倒すことは普通面倒なものなのだと気がついた。


 しばらく魔窟を進むと、俺はすっかり緊張を忘れていた。魔物はほとんどネト、オオイが倒していたので、最後尾を歩いていた俺とニュートラルは後ろから奇襲を狙って隠れていたらしい魔物を数体倒しただけだった。魔物も全て魔法一発で倒せてしまうので張り合いが全く無いと言っても過言ではないのだ。


「暇だろ?」


 笑いながらニュートラルが聞いてきた。


「まあ…そうだな。緊張は完全に無くなった」


 俺も笑って答えた。


「前行って、一緒に戦ってくるか?少なくとも今みたいにただ歩くだけなことは無くなると思うぜ」

「…別に良いかな」

「でも、多分ジャコは攻略の働きぶりを見て報酬の振り分けを決めるだろうから、なるべく魔物討伐に参加しておいた方がいいんじゃないか?」


 なるほど。ネトとオオイはそれ目的で前に立っているのか。


「俺は冒険者選抜試験を受けるためにこの魔窟攻略に来たんだ。だから報酬とかは気にしない」

「へー、そうなのか。冒険者ねぇ…」

「そういうニュートラルは大丈夫なのか?冒険者選抜試験のために来てるわけじゃないんだろ?」

「そうだが、俺も報酬目的じゃない。魔窟攻略が趣味なんだ。いつも週末は魔窟攻略に来て楽しんでいる。俺みたいな魔窟攻略好きは結構いるんだ」


 なるほど。それにしてもこの世界に週末という言葉があることが驚きだ。月、火、水、木…の曜日があるのか?

 せっかく距離が近くなったので、もう少しこの世界のことについてニュートラルに聞こうとしたところで、ネトの大きな声が聞こえた。


「おいなんだこのデカい扉ぁ」


 小走りして、ネトらに追いつくと、その言葉通りとてつもなくデカい扉が建ててあった。高さは10メートルぐらいだろうか?


「やっと着いたか…」


 ニュートラルはやれやれと言いたげな表情で扉を見上げている。恐らく、この扉の先にボスやらが待ち構えているのだろう。ニュートラルに聞かなくても分かる。

 岩岩した洞窟に突如現れる巨大な扉。どこかのゲームかアニメかで絶対に見たことあるお決まりの展開。

 

「それじゃあ入りますか。ボスは強敵ですのでエイタさん達も協力してくれると助かります」


 ジャコは腰を低くしながら俺たちに手を合わせた。「もちろんですよ!」と、明るく返す。せっかく魔窟攻略に参加したのに何もやらないで終わるのは心外である。

 扉は重すぎて開かないなんてことは無く、ジャコが押すとすぐにゴゴゴ…と、音を立てながら開いた。中は明かりが無く、何も見えない。


「では。奇襲を仕掛けてくるボスもいますので注意して下さい」


 俺が扉の中の、不気味な雰囲気に気圧されていると、引き続きネトやオオイを先頭にジャコとニュートラルは迷わず暗闇の中に入っていった。

 後ろを見ると、サウら乞食は怯えた目で入るのを躊躇う俺を見ている。

 俺は唾を飲み込み、覚悟を決め、ボス部屋へと足を踏み入れた。


 


あけましておめでとう御座います

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