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其の八 仲間は選べない

 冒険者ギルド。冒険者の全てを管理する組織で、冒険者の第二の家とも呼ばれる。冒険者はここで仕事の斡旋をしてもらい、報酬を受け取る。もちろん、冒険者選抜試験の申し込みもここで出来る。

 …と、スペイドは教えてくれた。その情報はおそらく間違っていないのだろう。だけど、試験を受けるのに条件があるなんて聞いてない!!


 冒険者ギルドの受付嬢によると、試験を受けるには、一回でも複数人で発生した魔物を討伐する、魔窟攻略に参加する必要があるらしい。

 魔窟というのは、文字通り魔物が発生する洞窟のことで、だいたいの場合魔物はその中に発生するらしい。わざわざ危険を犯して魔窟の中に入るのは、そこでしか手に入らない貴重な資源が豊富で、冒険者はそこからも収入を得ているからだ。

 冒険者は手順を踏めば単独で魔窟攻略に挑めるが、エイタのような素人は最低一人は冒険者のいる複数人でしか挑めない。

 魔窟攻略に参加する事は難しくなかった。冒険者ギルドに、多くの魔窟攻略メンバー募集の貼り紙があったからである。


「なるべく早く…できれば今日中に参加したいんですけど」


 そう言うと、受付嬢はすぐに奥から該当する募集要項を持って来てくれた。どれが良いか聞かれたので、「なるべく集合時間が早い場所で」とだけ答えた。

 もらった一枚の、魔窟攻略メンバー募集の紙には三時間後、二つ隣の街に集合という旨が書かれていた。一つの山を越えないといけない場所らしく、間に合うのか受付嬢に聞かれたが、「大丈夫」と答え、冒険者ギルドを出た。


 ファイアステップの練習をする、良い機会だ。俺は集合場所まで飛んで行くことにした。

 ああ、行きたい所が少し遠いからって空を飛んで行けるなんて、夢みたいだ。

 そんな夢心地な気分で空旅を楽しんでいると、すぐに集合場所に着いてしまった。


 そこには五人、すでに待機していた。皆、無言で集合時間を待っているようだ。そして、五人の奥には大きな洞窟がある。魔窟であろう。

 後から二人来て、エイタを含めて八人になった。

 改めて七人を見渡す。三人程、明らかに細身な体で、戦えないような男がいるので不安になる。


「みなさん!集まってくれてありがとうございます!私は冒険者のジャコです!」


 ふと、一人の男が立ち上がり、話し出した。丸いサングラスをして、髪を伸ばしており、なんとなく胡散臭い感じがする。


「突然ですが、これから魔窟攻略する仲間として、どのように戦うのか?戦う時に使うのなら才力も教えて欲しいです。ちなみに私は雷魔法を使います!では皆さん、よろしくです!」


 なるほど、そりゃこれから初対面の人達と共闘するのだ。どんなふうに戦うのかぐらい知っておくべきだろう。


「じゃあ俺様から言うぜ〜。ネトだ。風魔法で使う。レベル2魔法までは大体使えるからよろしく〜。才力は使わないから教えなくて良いよな」

「ああ!大丈夫だ」


 初めに答えたのは、髪を尖らせた、ザ・ヤンキーと言うべき男だった。とてもじゃないが背中は任せたくない。


「私はオオイでございます。皆さん、魔窟攻略は不安でしょうでも大丈夫っ!私の才力、【硬爪】で全てを蹂躙します」

「頼りにしてるよー!」


 オオイはカチカチにセットされた髪をなぞりながらそう言った。データキャラみたいな見た目なのに才力は【硬爪】とかいうバリバリの武闘派(たぶん)。解釈不一致だ。


「じゃあ次は俺なー。ニュートラルっていいます。基本的にはー、風魔法使いでーす。」

「よろしくー!」


 いかにもチャラい口調のその男は、見た目もつり目に青髪で耳にはピアスを開けており、こちらは解釈一致だった。


「サ、サウです。」「ジークスタンと申します」「キュウイです。ほ、炎魔法を少し使えます」


 痩せた三人が続けて自己紹介をした。さっきまでいちいち大きくリアクションしていたジャコが無反応だったのが気になる。

 七人の視線を感じて、自己紹介していないのが自分だけだと気がついた。


「えと、エイタって言います。炎魔法を使います。才力は…戦闘には使えません」

「よろしくお願いします!」


「えー、それじゃあ早速行きますか!」


 そう言ってジャコは魔窟へ歩き出した。他の六人も各々立ち上がる。

 いよいよか…その中で俺は一人、緊張の汗を流していた。今まで、異世界で働いて寝ることしかしてこなかった俺にとって、今から「魔物」と呼ばれる奴らと超常的な力を使って戦うことは、緊張せざるを得ないことだった。


「どおしましたあ?そんな神妙な面持ちして」


 話しかけてきたのは解釈一致のニュートラルだった。


「別になんでもないですよ。ただ…少し緊張して」

「緊張?魔窟攻略で?ははーん、さてはお前初めてだな?」

「ま、まあ」

「ハッハッハー!やっぱそうか!大丈夫さ!この魔窟は大した魔物いねえから。楽しいもんだぜ?魔窟攻略!」


 ニュートラルは俺の背中をばんばん叩きながら言った。

 距離を詰める速さが苦手なタイプだなぁ


「は、話しかけてきたのは何か用があるからですか?」

「なんか用がないと話しかけちゃいけないのか?メンバーの中でお前が一番まともそうだったから話しかけたんだよ」


 まとも…確かにまともそうな人は少なかったけど…


「ジャコさんとかどうです?優しそうな人ですよ」

「あいつ胡散臭くないか?」


 う…それには同感だ。


「じゃあサウさん達は…?」

「お前あいつらのこと知らねえのか?ああ、そういえばお前魔窟攻略は初めてだったな」


 あいつ()とは、痩せた三人のことだろうか


「あいつらは…所謂、乞食ってやつだ。複数人での魔窟攻略ではよくある事でな。冒険者ギルドが決めたルールで、魔窟攻略で得た利益は全て参加者で分配しなくちゃならない。そして、ここが問題なんだが…分配方法も割合も自由だが、何も得ない参加者がいてはいけないんだ。分かるか?どんな奴でも魔窟攻略に参加している限り、なにか利益を与えなくちゃいけない。だから、そのルールを利用して碌に戦えないのに危険を承知で魔窟攻略に参加して、戦わずに後ろで縮こまって、報酬だけをもらう連中が居るんだ。貧乏なのは分かるが、戦ってる奴らからするといけ好かないってのも分かるだろ」


 なるほど…この楽しげな異世界にもそんな闇があるのか…。そんな人達にも一応の理解を示すニュートラルは悪い奴ではないのだろう。


「怪しいといえばジャコもそうだぜエイタさんよお」

「え?」

「こんな低レベルな魔窟にこんな人数集める冒険者なんて、怪しいさ。ま、これは杞憂かもだけどな」


 新たな不安は芽生え、緊張は解けないまま、俺は魔窟へ足を踏み入れた。

 

 魔窟攻略参加者を殺してはならない。もし、参加者殺しを見たら、可能ならば殺害者を取り押さえ、冒険者ギルドに報告すること。殺害者は冒険者ギルド及び魔窟に入る権利を永久に失う。報告者は10万ゼニルの報奨金を得る。

 というルールもあり、魔窟攻略乞食問題を助長している。

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