其の七 特訓
エイタは、ゼントルと別れてからは毎日、魔法の特訓の日々だった。朝起きたら、魔法をぶっ放しても影響のない場所を探してひたすらに特訓。
やる事は毎日同じだったが、上手く扱えない魔法があっても、寝て起きて、日を変えると完璧に出来るようになっているため、一向に飽きたりすることは無かった。
嫌でも成長を感じる日々。運動でも勉強でも特技と言える事は特に無く、好きな事も睡眠ぐらいであったエイタにとって、「魔法」は初めての「得意で夢中になれる事」になりつつあった。
「俺の天職は魔法使いだったか…!」
そう思いながら過ごす魔法特訓の日々は、エイタに異世界に来て良かったと思わせた。
「インフェルノは炎を拡散させず、なるべく圧縮させて…」
そう意識して放ったインフェルノは昨日よりも格段に鋭くなり、軽々と樹木を十数本薙ぎ倒した。
「よし!これで後はファイアステップの練習だけだな」
ファイアステップに関するゼントルの助言を思い出していると、不意に後ろから声をかけられた。
「先程のインフェルノの威力、相当の実力者とお見受けしますぞ」
背後に居たことに気づけなかったことに驚く。振り返ると、そこには背の小さい、小汚い老人が丸太に座っていた。
「あ、ありがとうございます。次にファイアステップを習得出来たらグランドマスター?ってのになれるらしいです」
グランドマスターなんて大層な名前、自分で言うと恥ずかしい。
「ほう、そうなのか!ではワシは新たなグランドマスターの誕生の瞬間を見れるのか」
「それが、ファイアステップがなかなか難しくて…今日中にはなれないかもです」
「なるほど、お前さんファイアステップ使う時に、手を開いてるじゃろう」
「え?」
急に何を言い出すかと思えば、この老人は炎魔法の心得があるのだろうか
「…たしかに、手は開いてるかもです」
エイタは、ファイアステップを使う時のことを思い出して答えた。
「その手を閉じて、使ってみぃ。足の指もできるだけ閉じるんじゃ」
「手と足の指を閉じて…ファイアステップ!」
そう唱えると、エイタの体は勢いよく宙に浮いた。
「え!?どこにもぶつからない!安定してる!?」
「そうじゃろうそうじゃろう」
老人は満足そうに頷いている。
「おじいさん何者!?」
「実はワシもグランドマスターでのう。もう体が衰えてほとんど魔法は使えんが」
「ほんとですか!?世界で数人しかいないのにこんな所で会えるなんて…」
「グランドマスターなりかけのお前さんに言われてものぉ」
老人は笑うように言った。
「ほら、集中せんと。今のうちに感覚を掴むんじゃ」
そう言われ、急いで意識を手足に向ける。
より手足に力をこめるとより高く浮くことが出来、体を右に傾けると右へ、左に傾けると左へ移動する。
そうして、試行錯誤している内にかなりファイアステップを上手く扱えるようになってきた。
「んじゃ、ワシはこの辺で失礼するよ」
「え、もうですか!?」
「ああ、長く居てもしょうがないしな」
「…分かりました。アドバイス、助かりました。ありがとうございます」
「いいって事よ」
老人はピースをして去って行った。その姿をカッコいいと、エイタは素直に思った。
実感はないが、俺は炎魔法のグランドマスターなる者になったのだと思う。
スパイド、ゼントル、そしてあの老人のおかげで魔法を自分の物にすることが出来た。
そして今、俺は冒険者ギルドの正面玄関に立っている。
「え、魔物の討伐経験が必要?」