其の十二 第一歩
魔窟攻略から地上に帰還し、冒険者ギルドにジャコを引き渡した後、エイタはニュートラルと共に冒険者ギルドのカフェで座り、知らない名前の飲み物を飲みながら話していた。冒険者ギルドの設備はかなり充実しており、冒険者以外も利用出来るのが良心的である。
「まさかジャコがあんなヤツだったとはな…」
「ほんとにビックリだった。礼儀正しい冒険者だと思っていたのに」
「しかし動機が稼ぎのためだったとはな」
ジャコは一緒に魔窟攻略をした仲間を魔窟の中で殺し、その報酬を独り占めしていたのだった。
「そして俺ももう少しで殺されそうだったのか、改めて礼を言うよエイタ。お前のお陰で俺もあいつらも死なずに済んだんだ」
ネトとオオイ、乞食の3人は報酬を受け取るとすぐ、各々の帰路についていった。別れは少し呆気なくて寂しい気もするが、これが魔窟攻略の常なのだろう。
「他のヤツらはお前に礼は言ったのか?」
「えーと…、サウさん?は話しかけてきてくれたよ。家に妻子がいて、とても貧しいらしい。今日の報酬でしばらくは食い繋いでいけるって何度も礼を言われた」
ニュートラルは憐れむような、優しい顔になった。
「そうか」
ニュートラルは話題を変えるために元の明るい表情に戻り、聞いてきた。
「この後はどうするつもりなんだ?すぐに冒険者選抜試験受けんのか?」
「そのつもりだよ。他にやる事もないしね」
「そうか」
「ニュートラルは?」
「俺か?俺は…いつも通りの生活だよ。魔窟攻略で稼いで家でダラける」
「冒険者にはならないのか?」
ニュートラルはエイタの言葉にビクッとしたように顔をひきつらせた。
「冒険者ねぇ…、まあいつかはな」
何か冒険者にならない理由があるのだろうか。俺はそれ以上、聞かないことにした。
ニュートラルとは冒険者ギルドの入り口で別れた。少し寂しいが、またいつか会えるだろうと信じている。異世界での、数少ない友人…と言っていいだろう。
俺は冒険者ギルドの中へ戻り、再び受付嬢に話しかけた。
「冒険者選抜試験はどうやって受けるんですか」
少し強張った声で聞くと、受付嬢のお姉さんはにっこりと笑い、「冒険者選抜試験、受験希望のお客様ですねー。それでは魔窟攻略経験の証明書を出して下さい」と、言ってきた。緊張をほぐそうとしてくれているのか、とても柔らかい声色だ。
俺は、ついさっき貰ったばかりの魔窟攻略クリア証明書なる物を出した。
「確認しました。ではまず、この用紙を参照し、一次試験場まで向かって下さい」
そう言って出して来たのは、どうやら一次試験の場所と日時が書かれている一枚の紙のようだった。下には、試験場の位置が示された地図が添付されている。
「ありがとうございます」
紙を受け取り、受付を後にする。背後から聞こえる「お気をつけてー!」という受付嬢の元気な声が、背中を押してくれるようだった。
「この建物か…」
エイタは冒険者選抜試験、一次試験が行われる場所の前まで来ていた。
冒険者ギルドで渡された案内の紙には、丁寧に大雑把な行き方まで書かれたいたので、かなりスムーズに到着することができたのだった。
しっかし、この世界に電車があるのは驚いたなぁ。まあ、冒険者ギルドは電球で照らされてたからあるのも納得か…。
建物の中は綺麗に整えられていて、至る所にある電球が綺麗に輝いていた。
「あのー、ここで冒険者選抜試験が受けられるって聞いたんですけど…」
スーツを着た、職員らしき人に話しかけた。
「ああ、そうですよ。ここでは、冒険者選抜試験一次試験を受けることができます」
「それっていつやってるんですか?」
「えーと…そうですねー、なんなら今すぐ受けれますよ?」
「え!?そうなんですか。じゃあお願いします」
「それでしたらあちらの階段から3階へ向かって下さい」
3階へ登ると、そこには冒険者ギルドと書かれた看板の下に、小さな窓口、その隣に簡素なドアがあるだけだった。
よくわからないが、とりあえずその窓口に向かって一次試験を受けに来た事を伝えた。
…少しの静寂の後、バーンとドアを勢い良く開ける音が3階に響いた。
「よー!待ってたぞ待ってたよ!いやー、俺が担当している時によく来てくれた。俺運無いから中々人が来なくてな!いやー、久しぶりだー!うん!よし!中へ入って!早速始めよう!」
「お、お願いします…」
そのザ・陽気なおじさんって雰囲気の人はジャバと名乗った。ヒゲを大胆に生やしていて強面なのに、柔和な印象しか受けなかった。
「いやー!本当に久しぶりだー!中々人来ないからさ!冒険者って人気な筈なのに此処だけ人来ないんだよねー!なんでだろ!ハッハッハッ!」
人が来ない理由がわかる気がする…。俺だってこの人がいるって分かっていたら、あまり行きたくはないかも知れない。
ジャバは一人で永遠と喋ってるだけで、こちらに話を振ってこないようで、こちらが困ることは無い。それに、さっき会ったばかりなのにジャバが良い人だって分かる。
「よーし、着いたぞ着いたよ!」
そう言ってジャバは、目の前にあるドアを重そうにしながら開けた。
その中は目を一瞬閉じてしまった程に、真っ白い真四角の部屋だった。床と壁と天井全てが真っ白でそれ以外何も無い。
「なんですこの部屋…精神と時の部屋みたいな…」
「精神と…、なんだ?その言葉は知らんが、此処が試験会場だ!」
そう言いながらジャバは部屋の中に入っていく。
「こんな部屋あまり居たくないだろう!俺も嫌なんだ、この部屋!もっとポップな感じにしろといつも言ってるんだがな!」
「そうですね。ポップは分からないけど…どこに壁があるかもよく分からないです」
「目が慣れてくるから大丈夫だぞ!その内見えてくる!」
ジャバが屈伸を始めた。
「それじゃあ早速だけど!始めようか、試験!普通はこの部屋で受験者の能力を、俺ら試験官が見て合否を決めるんだが…俺はシンプルにバトルするぞ!」
「バトル?」
「その名の通り、タイマンするんだよ!」
さっきからなんだか使う言葉が若々しいな…
「さあ!全力で来い!」
そう言ってジャバは構えた。顔はワクワクか止まらないと言わんばかりにニヤけている。
ジャバが試験官の時に人が来ない理由はこれだろうなあ。正直言って、面倒臭い。
「じゃ、じゃあ、いきますよ?」
この時の俺の頭の中には魔窟のボスを倒した時の場面がフラッシュバックしていた。
もし全力でやって、あの時みたいになったら冗談では済まない。かといって力を抑え過ぎたら不合格になるかもか…。ここは50%で…!
「《ファイアボール》」
炎の玉が勢いよく飛んでいく。
「はっっ!」
ジャバが拳を突き出し、ファイアボールを打ち消した。
「生身の手で魔法を!?」
驚きながらもファイアボールを追いかけるように距離を詰めていたエイタは、ファイアパンチを構える。
「そんなもんかあ!!?」
エイタとジャバの拳がぶつかる。その力は互角だ。
また生身で…!熱くないのか?それかもう何かしらの才力を使ってる?
「良い火力してるな!」
褒めてくるって事は余裕だな?ならば50%から75%に!
「火力が上がった!?」
ジャバはたまらずバックジャンプで距離を取る。エイタはすかさず追い討ちのファイアボールを放ち、先刻と同様にファイアパンチを構えて距離を詰め直す。
「「《ファイアパンチ》」」
再び、二人の拳がぶつかった。
ジャバさん、炎魔法使いだったか!
「っ!!!。魔法を使っても押し切れないか!?」
「こちらが押し切って見せます」
ジャバは完全に炎魔法を解禁し、エイタを追い詰めた。魔法の火力では、エイタが優ってたが、戦いの経験の面で圧倒的にジャバが有利だったのだ。
くそっ…!魔法の使い方が上手い!あと一歩が足りない!
「ハッハッハッ!最初の勢いはどうした!?」
ファイアステップを織り交ぜて攻めて来る!速い!ジャバさんやっぱり戦い慣れてるな…!
ファイアステップとファイアボールで着実にジャバは距離を詰める。エイタはファイアステップに慣れておらず、ファイアボールを飛ばして、牽制することしかできない。
「なかなか対応上手いじゃないか!だが!しかし!これに反応出来るかな!?」
そう言ってジャバは自身の前にファイアボールを三つ作った。って…そんなの出来んの!?
炎魔法の新境地に驚いている内に、ジャバのファイアボール三つが飛んできている。
「やべっ」
エイタはファイアパンチで三つ同時に撃ち落とそうと、拳に魔力を溜める。腕を振ろうとしたその時、三つのファイアボールの軌道が急に変わった。
「え?」
それらはエイタの目の前、パンチが届く距離の目前で急激に下降したのだ。ファイアボールは全て地面に打ち付けられ、爆発した。
こ、これは…!爆発の煙で前が見えない!?
「あと一歩だったな!あと一歩だったよ!」
「なっ!?」
エイタが予想外のファイアボールの軌道、ファイアパンチの構えによって上手く動けていない内に、ジャバは素早くエイタの背後を取っていた。
《ファイアパンチ》
「ぐあっ」
ジャバのファイアパンチはエイタに完璧にヒットし、エイタの体は壁まで飛ばされた。
「ぐぅうぅ」
エイタは飛ばされた部屋の端で腹を抱えて、うずくまった。
「す、すまない!夢中になってつい本気で殴ってしまった!久しぶりだったんだ、君ほどの実力の人と戦うのは!」
あーやばいこれ。視界が、だんだん暗く…
目を覚ましたのはソファの上らしかった。
「うっ…」
まだ横腹が痛む。
「目を覚ましたか…!いや…本当にすまない…大人気ないことをした。楽しくなって冷静さを失っていた。私の不徳の致すところというか…」
ジャバは本当に申し訳ないというような面持ちでこちらを見ていた。そして、頭を下げながら誠心誠意謝っている様子だった。
「ああ、いや。大丈夫です、なんとか…。まだ痛いですけど」
「立てるか?」
エイタはゆっくりとソファから立ち上がった。壁に打ち付けられたからか、全身がジンジンと痛い。
「ここは?」
「事務室だ。受験者が来るまで、俺たち試験官はここで待ってる」
ジャバにはさっきまでの勢いが無くなっていた。相当、反省しているようだ。
「気にしなくて大丈夫ですよ。大きな怪我はないみたいだし」
「そうかもしれないがプロである私が素人に対して本気を出して気絶させてしまうなど、言語道断も甚だしい。」
なんだろう。落ち着いた口調になったからか、さっきまでよりもジャバさんが知的に感じる。
「もちろん、一次試験は合格だ。これが証明書」
そう言ってジャバは、一枚の小さな厚紙を持って来た。
「二次試験は、大体一週間後にあるな。場所はその紙に書いてある」
「なるほど。ありがとうございます!」
俺がわざとらしく元気を出して応えると、少しは救われた気持ちになったのか、少し元気を取り戻した様子で、聞いてきた。
「何かお詫びで出来ることは無いか。このままでは居た堪れないというか…」
「…そうですね、、それでは二次試験までの一週間、ジャバさんに戦い方を教わっても良いですか?」
「俺にか?」
「はい!あの三つのファイアボールの出し方も知りたいですし!それとも忙しいですか?」
「いや!そんなことは無い!そうか…戦い方を教えるか…!久しぶりだが、やってみよう。それで少しでも君に対する罪滅ぼしが出来るのならば!」
これはありがたい。これで恐らく二次試験までに万全を期すことが出来るだろう。
「それじゃあ、お願いします!」
ジャバはいい奴




