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其の十 魔窟攻略②

 中に進んで行くと、周りにあった蝋燭がどんどん付いていき、あっという間にボス部屋の全体が見えるようになった。


「雰囲気あるなあ」


 思わずそう呟くと、隣に来ていたニュートラルは呑気だなと言って笑った。


「なにか物々しい感じはするけど…ボスはどこにいるんだ?」


 ボス部屋には荘厳な雰囲気があるだけで、魔物らしき影は全くない。


「…いや、来たぞ」


 そう、ニュートラルが言った途端に部屋の奥の床に魔法陣らしきものが浮かび上がった。不穏な空気が、部屋全体を覆う。紫色の稲妻が魔法陣の上に立ち、ボスらしき影が見えた。

 なるほど。こんな風にボスが出てくるのか。


「先手必勝っ!」


 そう言って走り出したのは、ボスが出る前から風魔法を構えていたネトだった。ボスの間合いに入ったところで、加速する。

 ボスは、巨大な鬼のような風貌で、頭に大きな角が生えていた。手には何も持っていなく、ボス部屋の奥にどっしりと構えている様子だった。


「ダイレクト・ウィンド!!」


 ネトが放った風魔法は見事、ボスに命中した。しかし、いかにも皮膚が厚そうなボスには傷一つ与えられない。


「えっっ」


 ダイレクトウィンドでボスを怯ませ、その後に風魔法を打ち込むプランだったネトは、大きくジャンプをしてしまう。空中で動けないネトに、微塵も怯む様子が無かったボスの容赦ない拳がぶつけられた。


「おい、大丈夫か!?」


 ニュートラルが壁に打ち付けられ、地面に倒れ込んだネトのもとに駆け寄りりながら叫んだ。


「…死んでは無いみたいです。気絶してるだけっぽいですね」


 自分達の間に安堵の空気が流れた。

「ヒィィィ!」という甲高い悲鳴が聞こえる。乞食らの声だ。その視線の先に目をやると、ボスの拳がこちらに向かって来ている。


「アレを止めんのは無理だ!避けろ!」


 ニュートラルの声だ。だがしかし、エイタの背後には動けないネトと、腰を抜かした乞食の3人。もしこの4人に当たれば、もれなく全員死ぬだろう。


 ほんの少し前までただの高校生だったんだ。ここで恐れをなして、逃げたって責めれる人間はいないだろう。例えば。馬鹿げた話だが、ただの高校生である俺が、街角の交差点でトラックに迫られているとする。後ろには、小学生でも居るんだろうか?そんな時、俺はどうするだろうか。腰を抜かして動けないだろうか。涙を流しながら逃げるだろうか。どれだけ混乱していても、トラックを退けようなんて事は頭に浮かびもしないだろう。

 だが、この時は違っていた。異世界という特殊な状況で興奮していたんだろうか。魔法という非現実的な力に酔っていたんだろうか。異世界という異常に適応し始めていたのかも知れない。

 足に力を入れ、拳を握り締め、体中がアツくなっていく。


「ファイアパンチ」





 …目を開けると、唖然としてこちらを見ているニュートラル、オオイ、ジャコがいた。

 右手を見ると、シューと音をたてながら煙が出ている。


「ど、どうなった…の?」


 恐る恐る聞くと、ニュートラルは目を輝かせながら近づいて来た。


「お前が倒したんだよー!ボスを!パンチ一発で!お前すごいなあーー!!いやー、あのパンチは凄い威力だった!俺の見立てじゃ、あのボスは相当硬いタイプだと思ったから腰抜けるかと思ったぜ。お前のパンチでボスが消えていった時は!」


 エイタはニュートラルの勢いに気圧された。


「あ、ありがとう」

「いやーすごいカッコよかったです。まさかこんな強い方だとは」


 そう言うジャコの顔は、心無しか引きつっていた。

 そのジャコの後ろにいるオオイは何だか不満げである。おそらく、自分も活躍したかったとでも思って凹んでいるのだろう。


「ネトさんは起きなそうですね…」

「ええ。早く医者にも見せたいのでなるはやで戻りましょう」


 一同はボスの戦利品を回収し、早速帰る準備を始めた。


「ネトさんは俺が担いで行きます」

「そんな…一番の功労者なのに、いいんですか?」


 ジャコは申し訳無さそうに言った。かなり遠慮している風だが、名乗り出てくれてありがたいという安心の感情も見て取れる。


「大丈夫です。不思議と疲れて無いんです。ゾーンとでも言うんでしょうか…?」

「そうですか…!では、よろしくお願いします」





「では、エイタさんのおかげで予定より早く終わったのでこの調子で素早く戻ってしまいましょう、皆さん!」


 ジャコの言葉を聞くとともに、一同はボス部屋を出たのだった。

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