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一匹の狸

作者: 六月梅雨子
掲載日:2024/06/06

おばあさんは無事バージョンでお送りします。

 むかしむかし、一匹の狸がげんこつ山で生まれました。狸には珍しく兄弟がいませんでした。母狸はそれはそれは大切に育てました。


 おんぶに抱っこで育てられた狸はちょっと目が悪いですが怖いものがありません。

狸は大人になって親離れすると、人を化かして笑い声を聞くのが好きになりました。


 となりの山に住むようになった頃、美味しい野菜が植えてある畑を見つけて夜にこっそり拝借するようになりました。

そこの畑を作っているお爺さんとお婆さんは、夜にこっそりと来る狸に気づいていました。

とても優しいおじいさんとおばあさんは、狸が少しばかり取っていく分には許してやりました。


 ある日、狸はおじいさんとおばあさんを化かして笑わせようと考えました。

畑に生えない稲穂に化けてた狸を見て、おじいさんとおばあさんは面白いと喜んでくれました。

そして、稲穂に化けた狸を温かい手で撫でてくれました。


 嬉しくなった狸は1日中稲穂に化けていました。

そろそろ日が落ちる頃、雀が一匹飛んできました。

稲穂に化けた狸だと知らずに、突付いて食べようとします。

驚いた狸は雀の口の中を引っ掻きました。雀はヨロヨロと山の中に帰っていました。


 次の日の昼頃、おじいさんが芝刈りから急いで帰ってきました。

その手の中には舌の無い雀が一羽。

おばあさんは急いで薬師のうさぎを呼び、助けてやりました。


 雀は一命を取り留めましたが、舌がないので米粒も虫も上手く食べれませんでした。

狸は雀に謝りました。そして何も食べれない姿を見てかわいそうに思いました。


 狸はこっそりとおじいさんとおばあさんの暮らすあばら屋に入り、戸棚の中にある海苔を盗んで雀に差し出しました。

雀はこれなら食べれそうだと、あっという間に完食しました。


 海苔がない事に気付いてガッカリしたおじいさんと、怒ったおばあさん。

2人は生れてから故郷の山を殆ど出たことが無いので、海の食べ物はとても貴重でご馳走でした。お正月に食べる為に大切にしまっておいたのです。

 

 狸と雀は相談して、お詫びにそれぞれ大切なものをあげることにしました。

狸は山でおじいさんを化かして、雀のお宿を作って案内しました。


 小さいつづらは、狸が用意しました。良い友達だった大カラスの遺品です。大カラスは人間のキラキラピカピカした物が大好きでした。

大きいつづらは、雀が用意しました。大好物の虫たちを数種類ぎっちり詰め込んだ欲張りセットです。


 小さいづつらを選んだおじさんは、とても喜んでくれました。立て続けにおばあさんも来てくれたので狸と雀は大喜びです。

大きいづつらも渡せて満足しましたが、どうやらおばあさんは虫が苦手だったようです。


 逃げ帰ったおばあさんの背中にしゃくとり虫がくっついたままでした。

しゃくとり虫に這われると死んでしまうと言うおばあさん。

それならと、狸も虫を取ろうと近くにあった棒を咥えて必死に手伝いましたが、おばあさんに怪我をさせてしまいました。

 

 優しいおじいさんもついに堪忍袋の緒が切れてしまいました。

狸は2人と仲直りしたかったのですが、許されませんでした。

狸は薬師のうさぎからおばあさんの状態を聞きました。


 薬師のうさぎは、おじいさんの芝刈りをこっそり手伝ったらきっと許してくれると教えてくれました。

狸は芝刈りしながら、おじいさんとおばあさんの話が聞けて嬉しく思いました。

 

 その日、狸はカチカチ山で火事に巻き込まれ大火傷をしてしまいます。

ヤブ医者のうさぎに治療され、船大工のうさぎに泥舟を掴まされ川に流されてしました。


 命からがら助けてくれたのは貧しい男に化けたキツネでした。

キツネにどうせ動けないのだから茶釜にでもなって住めばいいと言われた先は、稲荷神社のそばのお寺でした。

狸は昼間は茶釜に化けて、夜は狸自慢の腹太鼓で和尚さんと歌い踊り、たまにお寺の供物を拝借して暮らしました。


 狸の傷が治った頃、和尚さんが狸を中古屋に売りました。

誰も来ない中古屋は、人好きの狸にとって苦痛で仕方ありません。


 狸は中古屋の主人に正体を明かして町の人気者になりました。人を化かして笑わすのが大得意なのです。


 そんな楽しい日が続いたある日、珍しく冷やかな目線を送られました。

それは以前、美味しい野菜作ってくれたおじいさんでした。


 おじいさんは手作りの日用品を売りに来ているようです。

恩返しがしたい狸ですが、大の狸嫌いになってしまったおじいさんには近づけそうにありません。


 おじいさんは、狸以外には相変わらずとても優しいようです。点々と置いてあるお地蔵さんにも必ず手を合わせて、たまに撫でているようでした。


 狸はまたおじいさんの温かい手で撫でてもらいたくなりました。

たくさん撫でてもらいたいので、六地蔵に化けて待つことにしました。

頭が6つもあれば一つくらい撫でてくれるかもしれません。


 何日も何日も六地蔵に化けましたが、おじいさんは一回も撫でてはくれません。それどころか、止まってもくれません。

すっかり冬になり、雪がこんこん降りはじめました。


 朝この道を町に向かって歩いたおじいさんは、もうすぐ夜なのに帰ってきていません。

狸が心配していると、おじいさんが帰ってきました。


 おじいさんは朝と同じ荷物でしょんぼりしていそうに見えました。

ふと、おじいさんが目の前で足を止めました。


 ()()()も寒かろうにと、六つある頭のうちの五つに笠をつけてくれました。最後の一つの頭には、おじいさんのほっかむりを着けてくれました。温かいほっかむりです。


 狸はとても嬉しくておじいさんに抱きつきたかったですが、狸嫌いのおじいさんにそんなことは出来ません。

ぐっと堪えて、六地蔵に徹しました。


 狸はおじいさんが見えなくなった頃にようやく変化を解きました。

この嬉しさを話せるのは中古屋の主人だけです。


 急いで中古屋に入ると、店主と和尚が待っていましたと言わんばかりに、狸にあっという間に魚や野菜、お酒を大量に括り付けました。

それをおじいさんとおばあさんの所へ届けておくれというのです。


 雪の降る夜中でしたが、狸は大喜びでご馳走を届けに行きます。

狸はおじいさんとおばあさんの家ので再び六地蔵に化け、ご機嫌に歌い二人を起こします。


 無事にご馳走を届けた狸は、中古屋の店主と良いお正月を迎えましたとさ。

お読みくださりありがとうございました。

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