1-1-4【熊鈴】
本当は「熊避け鈴」なのだろうが、あまりそんな言葉を聞かない。
単に「鈴」か「熊鈴」である。
高いものは“南部鋳物"のもので、五千円するものもある。
音が高くて遠くまで届くから高いのは仕方がない。
ゴロゴロと低いものは近くになるまで聴こえないし、銅製の「牛の鈴」に至っては『あれっ!?獲物がいる!』と羆に誤解されるレベルである。
ただ、熊などいない低山でも一つ覚えで「熊鈴」を鳴らすのは止めて欲しいものだ。
せっかく、山の静寂を楽しみに行っているのに、興ざめも甚だしい。
大体、オバサンたちの話し声の方が、よっぽど「熊鈴」よりうるさい。
話変わって、山屋と言うのは、M体質が多いと思う。
でないと、あんなに重い荷物を背負ってわざわざ用も無い所に行けるものではない。
かく言う私は、写真が好きでモノクロの時は自分で現像焼付けまでやっていた程の凝り性だ。
当時はフィルムが高くてシャッターを切る音が、お金を落とす音に聞こえたぐらいである。
今は、デジカメになったので、撮ってすぐに映像を確認でき、ダメなら消せるから、滅多矢鱈とシャターを切る。
接写の時は、もちろん「ミラーアップ」で三脚を使って撮るので、そんなことはないが、普段は胸にトップローディングのカメラバッグをカナビラで固定し、雷鳥など見かけた時に、すぐ撮れるように連射モードにしてある。
花の接写が高じて、だんだん可憐な高山植物を撮るようになったので、私は純粋の山屋ではない。
だから、あまりピークハントに拘らない。
と言うより、人の来ないサブルートの方がメインだし、接写の時は風が止むのを待ったりレフ板を置いたりと時間が掛かる。
だから、ピークハントの輩とは行動が合わず、ほとんど単独山行である。
最近の登山客は、花を採って行くか、踏んづけてしまう人が多いような気がする。
だから、メインルートはぺんぺん草も生えないぐらいに、地面がカチカチに固まってしまっている。
嘆かわしい事である。
だから、否応なしに人気の無いルートを選ばざるを得ないのだ。
だが、人気の無いコース上に生えるキノコも綺麗なものがある。
『ハナオチバタケ』など、可愛くて持ってきたくなるが、花もキノコも登山道から撮るだけである。
こそこそと犯罪行為で持って来たところで、植物も菌類も育つわけがない!
高山植物や菌類は生育条件がシビアだから、平地の日当たりの良い所ではすぐ枯れてしまう。
“撮っていいのは写真だけ、残していいのは足跡だけ"
話を戻すと、この間、隣のテントから『さっさと喰っちまえよ!口の中で●になっちまうぞ!』と言う声が聞こえて来て卒倒しそうになった。
(●は米が異なるものになったもの)
とにかく山屋は忙しない。
言葉も短く詰めたり、隠語を使う。
だから、「熊避け鈴」ではなくて「熊鈴」なのだろう。
でも、一度人間を襲うと、餌だと思って「却って鈴に引き寄せられる」らしい。
だから、一度でも人を襲った熊は必ず射殺するのである。






