その3
「小ぶりのブーケが欲しいんですけど」
ちょうどほかのお客さんもいなくなったから、店員さんもすぐ捕まった。
「はい、どのような色にしましょうか」
店員さんは整えていたオレンジのリボンロールをレジ脇に置き、伝票を手に取った。
「とりあえず青色をいれてほしいんですけど」
僕のその答えを聞くと、店員さんはお店を一周眺めた。
「そうですね、青ですとあとはピンクと白でまとめるか、青と緑と──」
「青とピンクと白で」
なかなか自分じゃ選ばない色だ。ピンク、買ってみたい。
「では大きさはどうしましょう。大きいサイズですとこちらですね。お祝い事の際はお買い求めされるお客様も多いです。小ぶりなものでは店先のブーケになっておりまして」
あぁ、あのプラスチックのコップに入ったやつか。
「ただ小さなものになると色もそんなに入れられないのもあります。あとオーダーでブーケをお作りさせていただきますので、置いてあるブーケの表示価格に20%プラスした金額になります」
それだったら、置いてあるブーケを買った方が時間的にもコスト的にもいいのか。
──結果、僕の家には今3つブーケがある。
ドーパミンとかアドレナリンのせいだ。あいつが自制を僕から奪ったんだ。
青い花と薄紫の花のブーケ、赤とショッキングピンクと白い花のブーケ、そして白一色で構成されたブーケ。
色とりどりのブーケが花屋の紙袋に入っている。
なんで紙袋からださないのか。ないんだ、花を飾る容器が。
今日は店員さんが花が枯れないように、なんかジェルみたいなやつを茎の先につけてくれている。
知っている、俺はもう何回も買っているから。
こうなると選択肢はもう一つだけ。
実家に帰る。
家に帰ったら花瓶もあるし、なんやかんや花の面倒は母さんや姉さんが見てくれる。
ちょうど明日は週末。
片道2時間半かけて家に帰ろう。
一人暮らしの家に飾ればいいじゃないか。
花瓶なんて100均でもなかなかいいの買えるんだからさ。
そんなことは毛頭思わない。
なぜか。嫌なんだ、虫が出るのが。
もし虫が出たら、僕は一人では立ち向かえない。
無理なんだ、絶対に。
そういって僕は、数週間ぶりに花を携えて実家に帰える。
週末の間だけ、僕は花を眺めて楽しむ。
母さんや姉さんは、花の成長を楽しむ。
買ったときはつぼみだったのに、水をやっているうちに花を咲かせる様子がいいらしい。
花は何も言わないし、ただリビングの机の上で、玄関の脇で静かに咲いている。
何をしてくれるわけでもない。
ただ静かにそこにあるだけで、それがその姿なだけで、安らぎを僕に与えてくれる。
それだけ実家に残して僕は、週明けにまた会社に行く。
たまに母さんや姉さんから、花の成長を楽しんでいるメールがくる。
僕との楽しみ方は違うけど、各々好きに楽しんでいる。
僕の花の楽しみ方。
日々の繁忙、気遣う毎日、いかに効率よく成果を上げるか頭と体をすり減らす日々。
でも花と、花をめでている家に帰ると、僕は心地いい『僕』に戻るんだ。




