もし俺たちが幼馴染にならなかったとしたら?
タイトルを思いついたので軽くプロットを組んで、あとは勢いで書きました。
いつものように俺の部屋で幼馴染の春香と一緒に駄弁っていたときのこと。
「なあ、もし俺らが幼馴染にならなかったとしたら、どうなっていたと思う?」
「また変なことを言って……。ん-っ、そうね。――じゃあさ、設定を考えようよ、設定! もし幼馴染じゃなかったらーってやつ」
いきなりそう言われてもな。
とはいえ話を切り出したのは俺だ。きちんと話に付き合おう。
「設定はお互いの家が遠いってことにしようぜ。それなら今みたいに幼馴染にならなかっただろう?」
「そうだね。私たち、たまたまお隣さんだったから仲が良くなったわけだし?」
さて、ざっくりとした設定は考えた。
あとは架空の俺らの関係がどのように進展していくかだ。
「小学校が一緒になると仮定して、クラスの割り当ても昔と同じだとする。とすると、俺らは小学六年生になるまでクラスが一緒にならないわけだ」
「なつかしー! あのころの駿、まだ私より背が低かったなー」
仕方ないだろ。その頃の男女は女子のほうが体の成長が早いんだ。
俺だって好きで背が低い男子をやっていたわけではない。
「で、その時点で俺ら、仲良くなれたと思うか?」
「――ううん、無理。だってあの時のクラスメイトって男子グループと女子グループに分かれてたし」
だよなぁ。
男女が丁度お互いを異性として意識するかしないかの瀬戸際だ。
なかなか難しいお年頃の中、今まで接点のなかった春香と仲良くなるのは難しいだろう。
俺らが今までも、これからも仲良くしていけるのは幼馴染という立場があったからこそだ。
「じゃあさ! その時の駿は私の事をどう想っていたと思う?」
「難しいな。……元気なやつとか?」
当時の俺ならそのくらいしか考えなかっただろう。
体を動かすことが大好きな春香は、きっと休み時間になったら外や体育館で動き回っていて、それを目撃した俺は『元気な女子だなぁ』くらいにしか考えなかったはずだ。
「それじゃ、中学に入ってからの話、しよ? 私たち、どんな仲になっていたかなぁ」
「そういやあの時お互い図書委員やってただろ。暗に口裏合わせてやったわけだけど」
「――じゃあもし幼馴染じゃなくてもお互い図書委員だったってことで。決まりね? ねぇ、どう? 何か関係性が変わりそう?」
「変わるっちゃ変わる。間違いなくそのタイミングで仲良くなってた。友達ぐらいにはなれたんじゃないか?」
俺と春香の性格上、お互いのことを嫌うことはなかっただろう。むしろ同じ趣味であるマンガやライトノベル、小説などを通して仲良くなっていた可能性が高い。
……むしろ幼馴染じゃない方が青春してたんじゃないか? 俺ら。
今の春香を見てみろよ。勝手知ったる人の家。俺のベッドに寝転がりながらマンガを読んでるような奴だぞ。
幼馴染になって損をした。
彼女はマンガを閉じて枕元に置いて起き上がり、ベッドの上で女の子座りをした。
「春香はどうなんだよ。別に俺と仲良くしなくても、友達なんて選び放題だっただろ?」
「そうだね。私、人気者だったし?」
自分で言うな。
俺じゃなかったら下手したら嫌な女認定してたぞ。
「だけど、絶対に駿と仲良くなってた。だって……」
彼女は一拍置く。
「だってさぁ! 前から何度も言っているけど、本の内容の解釈違いするじゃん! 私たち! ぜったいに、ぜーったいに何度もお互いに本の解釈について自己主張してた! 図書委員の仕事なんてそっちのけ! これだけは間違いないと思うよ?」
そうなんだよ。
俺らは読んだ本の感想がよく食い違う。
かといって口論や喧嘩にはならない。
ただお互いに『そんな考え方もあるのか』と感心し合うだけだ。
しかし委員の仕事をぶん投げてまでするってのは言い過ぎだろうと、苦笑しながら話を聞いていた。
「そこまでの仲になったらいつもの俺らだな。結局幼馴染じゃなくても仲良くなってたんじゃないか?」
「そうだね。――ちなみに、そのまま中二になってたら私たちはどうなってた?」
「……言わなきゃ駄目か?」
「ダメ」
困った。出来れば仮にそのまま中学二年生になってからの俺らの話はしたくない。
だが彼女は俺の返事を待っている。
……もう腹をくくるか。
「多分好きになってた」
「誰が? 誰を?」
「俺が、春香を」
「――えっ。本気で? ちょ、ちょっと理解が追い付かない! ちゃんと説明して?」
「分かった」
俺が女性を異性と意識し出したのは丁度中学二年生のころだ。
仮に幼馴染がいなかった俺が好きになる女性といえば、クラスで一番かわいい子でもなく、先輩でも後輩でもなかったはずだ。
間違いなく一番近くに居て、明るくて、可愛くて……趣味を共有できる春香のことを好きになっていた。
「――ってわけ。分かったかこの野郎。野郎じゃないな、女郎か」
「いやー、冗談きついっすよ。駿さん。それなら今私のことを好きになっていてもおかしくないってことじゃないっすか」
何だよその口調。
こいつ一回わからせないと駄目だな。
やることなすこと自覚無しに行動しているように思える。
「――全部説明しないと理解できないような阿呆らしいし、全部言ってやるよ。ああ、そうだよ! 俺は春香が好きだよ! どんだけ好きかって? 他の女子が目に入らないくらいだよ! 大体お前、いつも俺と二人きりになると無防備過ぎなんだよ! 思春期の男子の苦労を知らんのか!?」
「ちょ、ちょっと! 駿、今、告白、告白してる! ムードとか考えて!? お願い! もう一回だけでいいからちゃんと告白やり直して!」
「それは春香の気持ち次第だな。俺、異性として好かれているのかそうでないのかよく分からんし」
でないと男子のベッドで寝転がるなんて真似しないだろう。
よほど男として見られていないか、逆に信頼され過ぎているかのどちらかだ。
「はぁ……。駿がここまで朴念仁だとは思わなかった。――じゃあ言うね。私は私の読書感想を否定せずに聞いてくれた男子が好きなの。重い本は持ってくれるし、体調が悪くなったときは保健室まで一緒に行ってくれたし。それに――」
まずい!
この流れ、さっき俺がやったやつだ。
下手したら告白されるぞ。
ムードを作れって言ったやつ誰だっけ? いいのか? このタイミングで。