私、冒険者になる!
外見だけの判断はダメ。
「ダゼルには、1ヶ月の謹慎を言い渡す。」
「パパ!」
「ハルーリ子爵、父親としてでなく、この町を治める者としての判断をお願いしたい。」
「それはどういう意味で?」
「セシルは確かに平民ではありますが、只の平民ではありません。1つの村を束ねる者の孫です。そして、俺が認識した以上はもう1つの意味で『只の平民』ではありません。」
「……それは?」
「セシルの母親であるシーナには姉が居たのですが、その姉が俺の母親です。」
「なっ!?」
「つまり、俺とセシルとは『いとこ』の関係になります。」
「……」
「更に言えば、もう人格の修正は不可能でしょう。
それは、ハルーリ子爵の権力を振りかざす問題行動を起こす者を意味します。」
アリウスの短剣を出したくないなぁ。
アレを出すと、ハルーリ子爵にも類が及ぶからな。
「……ダゼルから貴族籍を剥奪して勘当する。そして、この事を領地内と、隣接する他領地にも報せる。」
「領主としての正しい判断です。」
「……パパ、嘘だよね? パパはそんな事をしないよね?」
「……ダゼル、お前が真っ直ぐに育ってくれればこんな事にはならなかったのだ。」
「……そんな……ママに言い付けてやる!」
「待て、ダゼル!」
ダゼルは情けない事を言いながら出て行った。
「……ダゼルだけは、正妻の子ではなく、第2夫人の子でね。」
数分後、ダゼルと恐らく第2夫人が乗り込んで来た。
「貴方、どういう事です!」
「ダゼルは、許されない凶行を繰り返した。因って貴族籍を剥奪して勘当する。」
「こんな良い子が、そんな事をする筈は無いわ! そうよ! この薄汚いガキが貴方を唆したのね!」
「そうだ! お前の所為だ!」
「リザベラ、止めるんだ。」
「いいえ! 本来であれば処刑になる所を最後の慈悲を示しましょう。銀貨1枚恵んでやるから、即刻立ち去りなさい!」
「貴女は誰に命令をしているのか、分かっているのか?」
「誰にって、私の視界に入っている薄汚いガキよ!」
「そこに居るダゼルは伝えていない様なので、自己紹介をしよう。俺の名はレキウス=フォン=レイロード子爵だ。」
「……子爵の子供が何を偉そうに……」
「リザベラ!」
「何を勘違いしている。俺が子爵だ。」
「……なっ!」
「ハルーリ子爵。」
「大変申し訳ない。リザベラ、君には別邸での暮らしを言い渡す。」
「貴方!」
「リザベラは、ハルーリ家を潰す気か!」
「……え!」
「レキウス殿は、アリウス殿下の懐刀だ。既に幾つもの貴族家が、彼に因って潰されている。その中には『侯爵家』も含まれているんだぞ!」
「そんな……」
きちんと情報収集をしているんだな。
懐刀は、言い過ぎだけどな。
……そうか。きちんと情報収集をしているから、突撃訪問なのに即面会出来たのか。
「私は、ハルーリ子爵家当主として『家』と『名』を守る義務がある! それでも不服なら、リザベラにもそれなりの処置を取らなければならない!」
「……分かりました。」
「ママ!」
「ダゼルが、通知が行き届く前に、何かするかもしれん。
反省の意味も込めて地下牢に私が言うまで入れておけ!」
「パパっ!」
ダゼルは最後まで、喚いていたが、ハルーリ家の私兵がダゼルを連れ去った。
色々と諦めた第2夫人は、大人しく連行されていった。
そして、ダゼルから聞き出したセシルを閉じ込めていた部屋に行って助けたのだが、セシルが俺に向かって泣きながら両手を広げたから役得かと思ったら、俺を躱して後ろに居たシーナに抱き付いた。
……俺の両手は寂しく放置された。
そして、ヒナに永久凍土な笑顔で詰め寄られた。
「レキは何をしようとしたのかな? かな?」
「え、いや、その……」
「後で正座説教ね。」
「……はい。」
そして、体面的な理由で1泊した後、俺達は帰る事にしたのだが、セシルは何か思い詰めた顔をしていた。
村でフィリアの勉強をヒナと一緒に、見ながらのんびり文献を漁る3日間過ごしていたら、セシルから呼び出しを受けた。
「どうした、セシル。」
「お母さんと相談して決めた事があるんだけど、レキウスに協力して欲しいの。」
「何を?」
「私、冒険者になる!」
「シーナさん、説明してくれ。」
「セシルは拐われた事で自己防衛に対して危機感を覚えたみたいで……」
「だから、自分の身は自分で守れる様になりたいの。」
「その手段が……」
「冒険者よ。」
「……」
「レキウス、お願い!」
「レキ君。私からもお願い。」
「命の危険もあるぞ。」
「私もセシルも、きちんと分かっているわ。」
「……分かった。」
「ありがとう、レキウス。」
「但し!」
「但し?」
「最終的には、セシルは俺達以外のパーティーを組んで貰うからな。」
「何故?」
「実力差が有り過ぎるからだ。」
「……分かったわ。」
「ちょっと残念だけど良かったわね。」
「ありがとう、母さん。」
「勿論、俺達もきちんと助けるから。」
「それなら大丈夫ね。」
「所で、セシルは奴隷についてどう思う?」
「別に何とも無いわ。」
「分かった。」
「奴隷が関係あるの?」
セシルに説明した。
身内に不幸は来て欲しくないという理由から、最初は裏切らない奴隷を考えていると。
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