ヒナという女性を知っているか?
後、ちょっとで、再会の時が。
翌日、俺は午前中いっぱい使って屋敷内や敷地内を見て廻った。
この時、普通なら行かない所も見て廻った。
メイド達使用人の部屋だ。
勿論、執事のセウスとメイド長へーラが同行している。
何故、そこまで見るかというと、そういった部屋の方が内情が分かり易いからだ。
……ってカリアが言っていたけど、過去に何があったんだろうか?
理由を聞かれたから正直に答えたら、納得したみたいで見て廻った。
特に問題なかった。
何か有れば、お祖父様に報告するつもりだったけど、何も無かったし、私的な場所を荒らしたお詫びにと、全員に銀貨1枚を謝罪しながら渡した。
何か、向こうの方が謝罪してきたけど、悪いのは俺だから、と言って場を収めた。
午後になって昼食を食べ終わると、使いが帰って来て、報告を受けた。
ヒナちゃんがお世話になっている商会が分かったみたいだ。
俺もヒナちゃんからの手紙が届いたから、俺からも手紙を送ったけど、返って来たのは最初の数回だけで、半年くらい経つと手紙は来なくなった。
きっと王都での生活が厳しいのだろうと、お父さんも言っていたからそうなんだと思ったし、俺も辺境伯家での生活が大変で手紙を送れないでいた。
……ヒナちゃん、怒ってなければ良いけど。
まあ、会って直接ヒナちゃんに謝ろう。
早速、売る物品をマジックバッグに移し替えて、出発だ!
「レキウス様、そのヒナ様とはどういうご関係で?」
「幼馴染みで結婚の約束をした仲だよ。」
「何時、ご結婚の約束を?」
「俺が村に居た頃。」
「……そうですか。」
アンナとそんな話をしながら移動時間を潰していると、到着したみたいだ。
見る限りは上手くやっているみたいだな。
「いらっしゃいませ。」
中も悪くない。
「当商会に、どのような御用件で、貴族様。」
「無用な物を売りに来た。」
「左様でございますか。拝見しても宜しいでしょうか?」
「ああ。」
俺は勧められた場所にマジックバッグから取り出した。
「良いマジックバッグをお持ちで。」
「……以上だ。」
「それでは失礼します。」
商会から紅茶を頂きながら、暫く待っていると終わったみたいだ。
商会の者が売った物を片付け、代価を用意している時、俺を担当した者が話し掛けた。
「貴族様、大変不敬ではありますが、お聞きしたい事があるのですが、宜しいでしょうか?」
「どうぞ。」
「ありがとうございます。それでは。何故、貴族様のお屋敷に呼ばず、わざわざ当商会に足を運ばれたのでしょうか?」
「それは、此処に来れば、会えると思ったからだ。」
「それは誰でしょうか? もし宜しければ教えて頂けないでしょうか。」
「ヒナという少女を知っているか?」
「……ヒナは確かに弟の娘ですが、その、貴族様とはどういったご関係でしょうか?」
あ、この人がヒナちゃんのお父さんのお兄さんか!
「幼馴染みだ。」
「……え!?」
「ヒナから聞いた事が無いのか?」
「……あ! ヒナが言っていた『レキ』という少年は君か! しかし、あの少年は平民の筈……、いや! その前に村がモンスターに襲われた時に死んだ筈じゃあ……」
詳しい話をする為に俺は個室に移り、説明をした。
勿論、俺の事は他言無用をお願いした。
あまり、良い話じゃないしな。
「そういう事でしたか。リンの落ち込みようは弟から聞いていましたが……」
「そうか。それでリンは今、何処に?」
「今、使いに出していまして帰ってくるのは夕方前くらいかと。」
「そうか。」
「……レキ君! いや、レキウス様! お願いします。
リンを助けてください!」
必死の顔だな。
何か、有ったのか?
「どういう事だ?」
「実は今、ヒナにしつこく婚約を迫っている貴族がいまして。私や弟、そして、ヒナもはっきりと断ったのですが、未だにしつこく迫っているのです。それでも、一商会の娘よりかは、貴族の一員になれるのなら、と考えていましたが、貴方が居るのなら、話は別です。レキウス様、ヒナへの気持ちは嘘偽りも無く、変わっていませんか?」
勿論、今もヒナちゃんへの気持ちは変わらない。
「ああ。ヒナは俺の大切な幼馴染みで婚約者だ。」
「ありがとうございます。それでは、私共は、レキウス様を支持します。」
「ありがとう。それで、ヒナにしつこく迫っている貴族は誰だ?」
「はい。バードン子爵家の次男ヘカートでございます。バードン子爵様とは良い関係なのですが。」
「分かった。バードン子爵には配慮するよ。」
「ありがとうございます。」
あまり貴族の当主と事を構えるのは良くないしな。
「それで、そのヘカートには何処で出会える?」
「早ければ、明日の王立学園の入学試験だと思います。レキウス様も行かれるのでしょう? それにヒナも受けますから。」
「そうか。それじゃあ、明日、ヒナに出会えるな。」
「はい。」
「それじゃあ、ヒナには俺の事は秘密にしといてくれ。ヒナを驚かせたいから。」
「……分かりました。ヒナの事を宜しくお願いします。」
俺達は個室から出て、代金を受け取り商会を後にした。
明日が楽しみだなぁ。
バードン子爵には、明日の入学試験中に手紙が届く様にしよう。
人様の婚約者に迫るなって。
翌日
準備万端で入学試験を受ける為に、王立学園に向かった。
さて。
何故、俺が王立学園の入学を目指すかというと、貴族的な体面の為だ。
貴族は周りが思っている以上に、後継者問題は難しい。
返事1つ、仕草1つで興亡が決まる。
だから、昔は、貴族と認められる為には王立学園の「卒業」が必須だったが、今では、入学すれば良くなった。
まあ、その分、入試問題が厳しく難しくなったらしいがな。
そんな訳で、冒険者希望の俺も王立学園の入学を目指す訳だ。
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