コイツは、馬鹿か?
理由は何であれ、ゾフィーネさんは頑張ったのです。
「ゾフィーネさん! 何故、いきなり土下座を?」
「……」
「とりあえず、ソファーに座ってください。話はそれからです。」
「……はい。」
ゾフィーネさんがソファーに座り、対面に俺も座る。
「それで、何故、入って来るなり謝罪を?」
「はい。神殿の不正や横領の件です。」
「あ~。言いたい事は察しました。今まで大変だったでしょう。言いたくない事もあるでしょうから、言わなくて良いです。今までお疲れ様です。これからは、もうその心を汚さなくても良いですよ。」
「……はい。……グス。……ありがどうございまず。」
俺は何も言わずにハンカチをゾフィーネさんに渡す。
「……ありがどうございまじゅ。」
チーン!
「……新品でお返しします。」
何故、異世界に来てまで、この「お約束」が存在するのだろうか?
「それとちょうど良いので、ゾフィーネさんに報告があります。」
「はい、何でしょうか?」
うん。
ゾフィーネさんの顔が泣き顔から管理責任者の顔になった。
「以前、話していたゾフィーネさんの補佐役兼護衛を家族ごと呼んだので、お願いします。家族の方も使えますから安心してください。」
「分かりました。」
翌日
王都から司教が来る筈だからと領主館で待っていると、昼食まで後1時間って所で来た。
昼食をタカるつもりかと思っていたら、事後承諾で、神殿の掃除が終わった報告に来たみたいだ。
司教と随行者を応接室に案内して、俺とゾフィーネさんが報告を聞いた。
「……と、いう訳で神殿長を始め、神々の名を汚した罪人達は我々の方で裁きます。それに併せて不正に集めていた金銭等は、領主様にお返しします。民に還元してやってください。そして、数日以内には選考しまして、新しい神殿長や補佐を派遣します。」
「分かりました。よろしくお願いします。」
「それでは、失礼します。」
「もうすぐ、昼食の時間です。もしよろしければご一緒に如何ですか?」
「ありがとうございます。それでは、ご厚意に甘えましてご相伴させて頂きます。」
この後、内心は必死に言葉を選びながら、差し障りない会話を司教と一緒に昼食を食べながらした。
……俺、頑張ったよ。
そして、見送りの時に、ふと思い出したかの様に、俺に問い掛けた。
「そういえば、レキウス子爵には、正式な発表はまだですが、婚約者が居ると噂で聞いたのですが?」
「ああ。今、体調を崩しておりまして。」
「そうですか。婚約者の方に、『お大事に』と、お伝えください。」
「分かりました。伝えておきます。」
「それでは、失礼します。」
こうして、司教の乗った馬車が王都に帰っていく。
後ろには、布で隠しているけど、檻を乗せた馬車が後を付いて行っていた。
……もしかしたら、王都の神殿はヒナを嗅ぎ付けたのかもしれないな。
今後は、もう少し慎重にする必要があるかもな。
午後は俺とヒナは領地経営をゾフィーネさんから教わり、書類と格闘していると、待っていた彼女達が来た。
ゾフィーネさんに裏稼業をしていた元暗殺者と、その家族を紹介した。
「彼女達が、ゾフィーネさんを補佐役兼護衛のルデアとルチルと、その家族です。普段はメイドとしてお願いします。」
「分かりました。彼女達をお預かりします。」
「ルデアです。ゾヒィーネ様、よろしくお願いいたします。」
「ルチルです。ゾヒィーネ様、よろしくお願いいたします。」
後、それぞれの家族の紹介も終わり、黒猫人族の連絡役が主な仕事である事を告げて、残りはゾフィーネさんに任せた。
因みに、ヒナとリンは地下訓練所で、ハクガ達に鍛えて貰っている。
その日はこれで終わり、翌日は、冒険者ギルドに皆で行ってみた。
到着して中に入ってどんな依頼が有るか掲示板を見ているのだが、BBQ以降のシュナのスキンシップが増えた様な気がする。
今も、後ろから抱き付き、俺の頭に顎を乗せている。
「シュナ。」
「は~い。」
俺が注意すると大人しく離れたが、後頭部や首に柔らかくて温かいナニかが離れてちょっと残念に思ったのは秘密だ。
「朝の混雑を回避したから、特に美味しい依頼は無いな。」
「そうだね、レキ。」
「レキウス様には、領地からの収入がありますから、問題無いのでは?」
「ああ。それは計算に入れても無いな。少なくとも3・4年はな。」
「何故ですか?」
「先代のオークが領地から搾れるだけ搾ったからな。とてもじゃないが、俺に廻って来る遊び金は無いよ。それに、そういうお金なら、冒険者の方が圧倒的に早くて簡単だ。」
「そうなのですか、レキウス様。」
「ああ。ドラゴン1匹倒せば、大金貨以上は固いからな。」
「はぁ~。レキウス様は、本当に規格外ですね。」
「誉めるな、照れるだろう。」
「「誉めてません!」」
「ヒナまで、ヒドい!」
「レキヤ、遊んでないで、どうするのだ?」
「そうだな、今日は東側を廻ってみるか?」
「私は賛成よ、レキ。」
「レキウス様、私もです。」
「それじゃあ、出発しようか。」
「待てよ。」
俺達は、今日の予定を決めて出発しようとしたが、待てが掛かった。
そいつは男で、まあ、甘いマスク系のイケメンだな。
「何か用か?」
「恥ずかしくねえのか?」
「何が?」
「そんな寄生で、強くなったつもりか?」
「なっ!」
「リン、抑えろ。」
「……はい。」
「どんなメンバーを揃えようと、自由だろう。文句を言われる筋合いは無いな。」
「確かにそうかもしれないが……」
そうかもしれないが、じゃねえよ!
その通りなんだよ。
「君達も、納得しているのか?」
「質問の意味が分かりません。」
「その奴隷の娘も、酷い扱いを受けているのだろう。」
「そんな事はありません。」
「いや、そんな風に庇わなくて良いんだ。」
「結局、何が言いたい?」
「ボクが勝ったら、彼女達を解放しろ!」
「……は!?」
「そんな周りの力で、強くなろうとせず、君は君自身の力で強くなるべきだ!」
「それで、解放したら、お前はどうするんだ?」
「ボクからは何も言わないし何もしないさ。だけど、彼女達が自由になって、今後の事を考えた時に、ボクのメンバーになってくれたら嬉しいと思う。」
コイツは、馬鹿か?
暖かい応援メッセージと星の加点をお願いします。




