それぞれの道【後】
優菜視点 / ノヴァ視点
異世界から強制送還された優菜が、目を覚ましたのは病院でだった。
雨の日の夜に、道路脇に倒れていたとのことで医者だけではなく、警察からも今までのことを問われたが――異世界にいたなどと言うと正気を疑われそうだったので、何も覚えていないと言い張った。けれど警察が帰った後、優菜は両親から思いがけないことを言われた。
「実は……恵の行方不明が、うちのせいだと疑われている」
「……えっ?」
「優菜の捜索願はすぐに出したが、恵の捜索願を出していなかったから……危害を加えるまではしなくても、辛く当たったり放置したりしていたんじゃないかと。あと優菜の学校から、今まで優菜だと思っていた宿題やテストは、恵にやらせていたんじゃないかと……優菜の筆跡が、今までの恵のものと酷似していると連絡が入った」
「…………」
父の言葉に、優菜は真っ青になった。言われるまで気づかなかったが、確かに成績が下がったこともだがそもそもの筆跡が優菜と恵では違う。
異世界に行っていたのは一週間くらいだったが、不思議なことにこちらでは一か月近く経っていて、もう夏休みに入っていた。
その間、疑惑の目(ほぼ真実だが)を向けられていた両親は、すっかり疲れ果ててしまったらしい。
「流石に辞めろとまでは言われないが、会社からは地方へ転勤することを勧められた……多少は不便になるかもしれないが、恵のことを知らない土地にいけば今みたいに色眼鏡で見られることはないんじゃないか?」
「……っ!」
異世界にいるが、恵は生きている! 召喚されたので、いなくなったのは優菜達のせいではない!
咄嗟にそう言おうとした優菜だったが異世界から戻ってくる時、魔王が優菜だけに聞こえるように言ってきたことを思い出した。
「恵のことを誰かに話したら、また召喚するからなー?」
顔だけは綺麗だったが、言うこともやることも悪魔としか思えない。いや、そもそもが魔王なのだが。
異世界から戻される時の、激痛を味わいながら急降下する感じ(おかげで気絶した)を思い出して優菜はゾッとした。異世界で話したことが伝わるなんて、と思うのだが恵と違って再び、優菜が召喚されてもまたすぐに強制送還されるだけだ。もう二度と、あんな思いなどしたくない。
「……ん」
「そうか!」
「優菜ちゃん、色々辛かったでしょう? 女の子だし、無理して進学しなくても良いからね?」
頷いて俯いた優菜からは見えなかったが、それでも両親が安心したことは伝わってきた。
……その後、優菜の学力により底辺の高校にしか入れなかったのは余談である。
※
そして異世界の、魔国に残った恵はと言うと。
玉座にいる時だけではなく食事の時も、更に夜寝る前や朝、起きて食事をするのに移動する時、ノヴァの膝に乗せられたりお姫様抱っこされることに物申していた。
「ノヴァ君! いちいちくっつくの、控えましょう! 心臓に悪いですっ」
「えー? こうしないとお前、馬鹿だから必要とされてるって伝わらないだろー?」
「大丈夫です! 十分、伝わりましたっ」
「じゃあ、俺が恵がいないと寂しいからー?」
「じゃあ!? ……逆に、くっつき過ぎだからじゃないですか? 少しずつでも離れて、慣れましょう?」
照れてはいるが必要だと示されるのは嬉しいし、更に寂しいと言われれば何とかしたくなるのが恵だ。夕食後の今も部屋までの移動でお姫様抱っこされながら、気遣うようにノヴァを見上げて優しく子供に言い聞かせるように言う。
そんな恵にノヴァは軽く紫色の目を瞠った後、ニンマリと笑って答えた。
「やだ♡ 恵が慣れて、受け入れろー?」
「もー!」
怒ったように唇を尖らせるが、降りようともがいたりしなくなったのでノヴァの狙い通り、恵は次第にノヴァのスキンシップに慣れて受け入れている。
そのことが嬉しくて、だが気づかれると拗ねるかもしれないので、ノヴァはこっそり笑みを深めた。
……こうして魔王は今日も、そしてこれからも、リュカオン達や優菜達の末路など気にならないくらい、恵を溺愛するのだった。
完結しました! ここまでお付き合い、ありがとうございましたm(__)m
のんびりながらも完結に向けて突っ走ったので、いずれ魔王と恵の後日談など書こうと思います。




