8話:vs悪人
この水鉄砲は装填している水だけが弾ではなく、私の体内の水分や近くの水気のあるところから水が補給できるので辺りに水がある限り無限に撃てるのだ。ただし、水鉄砲のタンクが壊れてしまえばそれまでなのだが。
水の中にはあらかじめ裂傷を与える錆や相手の動きを麻痺させる毒を仕込んでいるので大抵の相手はこれでノックアウトできる。
おまけに水の威力も私のある能力によりパワーアップしているのでコントロール次第でコンクリートや石も砕くことができるのだ。私とこの銃に隙はない。
バシュンバシュンと悪人の手を目掛けて水を発射する。腕にでも当たれば腕は麻痺して使えなくなる、筈だったのだが悪人の勢いは止まらない。
何故なのか疑問に思い牽制しながら観察していると一つ驚くべきことがわかった。
悪人の体に着弾する瞬間に水が蒸発しているのだ。そのせいか粉末状の拡散する筈の毒も全く効いていない。
(怒りで体温が上がって、水すらも一瞬で蒸発させることができるほどの熱を持ってるってことね。なんて奴……)
こんな出鱈目な能力を持っていて怒りに支配されているというのに無闇に突っ込んでくるのではなく、私の水鉄砲を狙って攻撃してきたりフェイントを入れて殴りかかってきたりと冷静な判断が出来ている。噂通り、ただのヤンキーじゃないみたいね。
(でも!)
正面から戦うのが戦いではない。私は飛び上がりフェンスへと立って銃を構える。ただ狙う場所は悪人ではなく、空だ。
最大限の火力を込めて、空へと一発撃ち込む。
大気に漂っていた水分を吸い、空から大粒の雨が降りだし始めた。
「ぬぅぅ……」
やはり悪人の体は無敵ではないようだ。水分すら溶かす体でも人間の体だ。空から降り注ぐ大量の水を蒸発するには相当の熱を必要とするはずだ。
実際先程まで赤くなっていた肌は段々と肌色へと戻ってきていて、悪人も苦しそうに膝をついた。もう、制圧できそうだ。
「観念しなさい。話は後で聞かせて貰うから。」
銃を下ろし会長に連絡しようとしたときだった。プルルと着信音がやっとなり始めたとき先程まで瀕死に見えた悪人がいきなり飛びかかってきたのだ。
銃を下ろし油断して警戒を疎かにしていた私は悪人のパンチをまともにくらい、後ろのフェンスへと叩きつけられた。
「うぐ……」
油断した……う、意識が……
意識が飛びそうだ。体のあちこちも痛い。でも私の失態を自分で補填できなくて何が風紀委員だろうか。
重い体を動かしなんとか水鉄砲を手に取る。そうして水鉄砲の水を癒しの水へ変え自分に吹き掛ける。骨は折れているかもだが痛みはとれた。まだ戦える。動きに支障はない。ここで絶対に悪人を倒す。