4話:虫の知らせ
「山田先輩、頼みってなんですか?」
「あぁ、それはな悪人ォ。俺の代わりにヤンキー部の部長になってほしいんだ。」
「はい?」
先輩のいきなりの申し出に俺は再再度困惑する。というかここに来てから困惑させられっぱなしだ。
「普通に嫌ですよ。俺は"普通"に生きたいんです。それにどうして俺なんですか?」
「なんでって、そりゃ……仮にもヤンキー部の部長である俺はお前に負けた。ヤンキーの世界では強い奴が上だ。そうだろ?悪人。」
「……」
「俺はお前が只のヤンキーならこんなことは言わないし俺は負けねぇ。だがお前は……オーラも実力も圧倒的だった。あの場に居た奴ら全員をねじ伏せたんだ。あれだけの力があれば誰をも守り、壊すことが出来るはずだ。だから、頼む、悪人。俺の代わりに皆と戦ってくれないか?俺の代わりに前に立って皆を引っ張っていってくれないか?」
少し迷った。力があるものが上に立つべきということ。組織は力で成り立つ。先輩のいうことも本当にわかる。だが、俺は今ヤンキー部に一切興味がない。それに喧嘩が主な活動とも言われるようなヤンキー部に加入すれば俺の生活に卒業まで安寧はきっと訪れないだろう。
怪我をさせてしまった負い目を受け引き受けてしまおうかと考えたがやはり俺は自分から普通の道から外れたところへ生きたいとはどうも思えなかった。
俺は「……すいません。それは出来ません。もう俺はヤンキーにも喧嘩にも極力関わりたくないです。あと怪我をさせてしまってごめんなさい。他の二人にも後で謝罪に行きます。」とだけ言って腹が空いたことも忘れて急いで席を立った。
足早に食堂を去ろうとすると山田先輩にすぐに呼び止められた。
「そうか、悪人。だが今俺にはお前が必要なんだ、逃がすつもりはないぞ?はは。」と。
俺は「ははは……」というから笑いだけ残してさっさと教室へと戻った。先輩のこの発言は冗談だと思っていたのに。
山田先輩にリーダーになれと言われてからというもの、ヤンキー部の奴らにずっと追い回されるようになっていた。いろいろな人に追いかけられたが一番しつこかったのはやはり山田先輩だった。
教室で座っていると山田先輩が教室に入ってくるのが見えた。何かを探しているように見える。俺は乱暴に椅子から立ち上がり教室から廊下へと走った。それを見て山田先輩は教室からでて俺を追いかけてきた。
「なんでついてくるんですか!!」
「決まってるだろ!お前がヤンキー部のリーダーなんだからよ。さ、命令でもなんでもしてくれや!」
「勝手に決めないで下さい!」
全速力で走って先輩を巻き、やっとの思いで教室へ特に戻ってこれた。昼休みの三十分は追いかけまわされていた気がする。
最近はずっとこうだ。食堂へ行くときも帰ろうと荷物をまとめている時も、授業を受けている時だろうが誰か一人は俺を監視しているようだった。いつでもどこでも山田先輩を含むヤンキー部は俺を追いかけてくる。
先生はこれらの行いが何か部活動の活動の一環であると勘違いしているようで授業中であるにも関わらず注意はしない。なんでだ。
クラスの唯一の友達のヤンキーに他のクラスメイトからの俺の印象や山田先輩の評判を聞いてみると「愉快で面白い」と思って貰えているらしく今のところ俺に対して悪印象はないようだった。
だがいつこの評価が逆転して「うるさい、迷惑だ」と思われるかわからない。その上俺の心労がとんでもない。つかれる……。
どうにかして諦めて貰わないとな、と思いながら使った体力を回復するために机で伏していると俺に何の干渉もしてこない、人に気を遣えるヤンキー部の三人が教室でぼそぼそと何かを話していた。何やら嫌な予感がして三人の会話を聞き取ろうとしたが全くわからなかった。
何を話していたんだろうか。良くないことが起こらなければいいんだが。