3話:喧嘩の後に
「ハァ……ハァ……」
またやっちまった。気づくとさっきまで俺をいたぶっていた不良連中が辺りに血や制服のボタン、彼ら自慢の髪の毛を散らして地に伏していた。
しかも俺の白かったTシャツにも拳にも血がべったり付着していた。
俺、何やったんだっけ……。なんとか必死に思いだそうとする。たしかあの後……。普通じゃないと言われて頭に血がのぼってそれから、切れてこいつら殴ったんだった……。
切れている間に相手を殴ったり蹴ったりとまたいろいろやらかしてしまったことを自覚した。
「あーあ。まじでやべー……。」
道端や路地裏ではこんなこと日常茶飯事でもはや見慣れた光景だが、学校では始めてだ。しかも入学して日が浅いのに。
とりあえず今出来ることは救急隊を呼ぶことだ。歯も折ってないし命には全く別状はないだろうがここで怪我人を放置していくのは普通ではない。保健室へと電話を掛けながら俺はこの体育倉庫を後にした。
自制心が利かなかったせいでまたこんなことをしてしまったのに先生への説明やらアフターケアのことを考えていると俺は
「あぁ……いやだなぁ……」なんて思ってしまっていた。
それからしばらく立ち俺はいつの間にか不良グループやヤンキー部の奴らから避けられるようになっていた。喧嘩の事がクラスで広まり、早速浮いてしまうのかと心配していたが道を踏み外した奴ら以外からは話かけても普通に会話してくれたのであの喧嘩がヤンキー達の間でしか広まっていなかったので少しホッとした。
安心するとなんだかお腹が空いてきた。
「ふぅ。とりあえず食堂でも行くか。」
俺は教室をでていつも騒がしい食堂へと向かう。
この学校の食堂は味がとても良いと学校内外から評判でラーメンやうどんなどの麺類や親子丼からカツ丼などの丼物、それにどすこい部や汁部の協力で出来た特殊な鍋などメニューが豊富であるらしい。おまけにここでは報復部が関わらない限り喧嘩などは一切起こらないという治安の良さまで保証されているらしい。俺にとっては楽園のような場所だ。
今日は何を食べようかと考えているといつの間にか食堂へと着いていた。食券機の前には長蛇の列が出来ていてこのまま待っていたら相当時間がかかってしまいそうだ。腹は減ったが待つのはなぁ……とりあえず無くなる前に席を取っておいた方がいいかと思い
並ぶ前に席を確保する。
「ふー……。」
座って一息つき辺りを落ち着いて見回してみると何十人もの声が聞こえているのに席はかなり空いていて思ったよりもがらがらだった。これなら急いで席を取る必要は無かったかもしれない。そんなことを思いながら並ぶかどうか迷っていると他に座る席があるにも関わらず一人の男が俺と同じ机に座った。
食事は一人でしたいなあと思い出来れば席を移動して欲しいという趣旨のことを伝えようとし相手の顔をみたとき俺はぎょっとした。目付きの悪い目、特徴的な髪型。俺と相席してきたのは俺が最近殴った不良グループのリーダー格だったスキンヘッドだったのだ。
「よう。相席するぜ。勿論いいよな?」
「え……?はい。どうぞ。」
俺はいきなりスキンヘッドが表れたことに困惑しただ頷くことしか出来なかった。なんで喧嘩した相手と相席を?もしかして報復にきたのか?色々な考えが浮かんでくるがスキンヘッドが表れた理由に良い点は思い付かない。あの喧嘩は俺の自制心が利かなかったことが原因で起こった喧嘩でもある。あの喧嘩で報復に来たのならとにかく素直に謝って多少は殴られよう。
「スキンヘッド先輩、この間はすいませんでした。」
「てめえよ。俺をあんなに殴っておいてただで済むと思ってんのか、ああ?あと俺は山田って言うんだよ。スキンヘッド先輩は辞めろ殴るぞ。」
スキンヘッド先輩、もとい山田先輩は初めて出会った時のように自らの顔を俺の顔に息がかかるほどに近づけた。山田先輩、この間よりなんだか威圧感が増している気がする。
「本当にすみません。覚悟はしてます。」
「そうか、まあもう終わった喧嘩だ。今さらぐちぐち言う気はねえ。それよりまずは俺に勝った強者の名前を聞かせろ。てめえ名前はなんつーんだ?」
「俺は坂城悪人。悪い人とかいて悪人と読みます。」
「ふーん、そうなのか。悪人。まあよろしくな。」
そう言って山田先輩はなんと握手を求めて来た。喧嘩した相手に。俺は再度困惑しながら山田先輩の俺より大きな手を握る。
「よろしくお願いします。山田先輩」
「よろしくな。早速なんだが悪人……あーその。」
なんだか煮え切らない様子の山田先輩。
「ん?なんですか?」
意を決したように山田先輩は喉に骨が詰まったような顔をして
「早速なんだが……悪人、頼みがあるんだ。」と言った。
頼みとは?