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作者: あぶ

朦朧とした意識の中で、僕は、目を覚ました。なんだか、後頭部に激しい痛みを感じる。自分が何者なのか、なぜこんなところにいるのか、全く思い出すことが出来ない。と、思索に耽っていると、ふと目の前に無造作に置かれている時計に気がついた。その時計の長針は5時を指していたが、長針は動いていない。どうやら、壊れているみたいだった。さらによく見てみると、その時計には、血痕のようなものが付いている。僕は、近くに寄ってそれを見てみた。血が付着してから時間が経っているようで、乾き切っていた。

僕は、少し怖くなったが、なんとか冷静さを取り戻した。まずは、自分の置かれている状況、そして、自分が何者なのかを暴かなければならない。そのためには、この部屋のことについて、もう少し調べてみる必要がありそうだ。僕は、もう一度辺りを見渡した。だが、部屋の中の殺風景さが、がらんと僕の方に押し寄せただけだった。その部屋にあったのは、先程の壊れた時計と、金属製の無機質な机、その上に無造作に置かれた一冊のノートと鉛筆と、腐ったかのような色をしたパンの山だった。普通の健康状態だったらきっとこんなパンを見たら、吐き気を催すに違いない。だけども、僕は、その普通の健康状態でもなかったため、そのパンのことを美味しそうと思ってしまった。僕は気づいたらもうそのパンを口に入れ、飲み込んでしまっていた。味はない。ただ腹を膨らませるためだけに食べ物を摂取したのだ。そのパンをいくつか食べたところで、腹も満たされたので、パンを食べるのをやめた。

僕はもう一度冷静さを取り戻した。あと見ていないのは、あのノートだけである。あそこには、もしかしたら、僕のこと、僕の今置かれている状況についてのヒントが書かれているかもしれない。僕はそのノートを手に取った。ノートの表紙にタイトルは書かれていない。僕は、そのノートを開いてみた。開いてみるとすぐに、僕は、仰天した。殴り書きのように、正の字がひたすら横並びに描かれていたのだ。それは、次のページにもその次のページにも続いていた。僕はなんだかその文字に既視感を覚えた。デジャブとでもいうのだろうか?そして、何ページか進んだあと、その正の字は、4画目で途絶えていた。僕は、なんだかその正の字を完成させなくてはいけないような気がして、最後の一角をテーブルの上に置いてあった、先の丸まった鉛筆を使って、書き足した。

そして、僕はそのノートを読み進めた。最後のページに差し掛かり、僕は、なんだか、次のページを開いてはいけないような気がした。だが、ここまで来たのだ。残されたヒントはこれだけしかないのだ。僕は思い切ってページを開いた。そこにはこう書いてあった。

「僕は人を殺した」

その一言を見た瞬間、僕は全てを思い出した。なんとか保っていた冷静さは一瞬のうちに消え去り、背中は、気持ち悪い汗でビシャビシャになっていた。冷静な判断をできるような状況ではなかった。僕は、何か硬いものを探した。床に無造作に転がる時計が目に入った。僕は駆け足でそれを拾い上げ、そして、自分の頭に思い切り叩きつけた。一瞬のうちに、意識は飛んでいった。




朦朧とした意識の中で、僕は、目を覚ました。


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