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休日の終わり

 スマートフォンの日付と曜日をじっと見つめ、今日が日曜日だと何度か確認する。

 ロックダウンされて自宅に閉じこもり、政府からの供給物資だけで生活を始めてからもう一ヶ月になる。全く外出することなく、WHAの配布する完全栄養食だけを食べ続ける毎日。

 初めは生活が保証されているし、まあ久しぶりの休暇だと思うことにして気楽な時間だった。三日ぐらいはテレビを見たりしてぼんやりと時間を過ごした。

 四日目ぐらいから、何か焦燥に駆られて室内の掃除に励み始めた。掃除だけでは気が済まず室内の荷物置場まで片付けた。この片付けで二日ほど暇をつぶし、断捨離が進んだ。

 偶然、このごみの中に未使用のプラモデルがあったので組んでみた。プラモデルを作るだなんて久しぶりだから時間がかかると思っていたのに、暇なせいか集中してしまって一日で終わってしまった。

 七日目、やることもなく思いたち、自己啓発というか勉強を始めた。これも久しぶりなので、楽しい気がしたけれどやっぱり手が進まない。

 手が進まないのは、勉強をしたくないというより気持ちが乗らない。気鬱というかそんな状態だ。テレビを見ると、爽やかな笑顔の白衣を着た男がグラフと数式でロックアウトの説明を行なっていた。ここまで詳しい話をされても分からないのだが、WHAはとにかくこういう情報は過剰なほど流し込んでくる。

 World Health Army。国際保健軍は軍事的な国際クーデターから始まったから、自分たちの正統性を示すため情報公開を重視しているそうだ。まあ、俺はその辺の話は眉唾だと思っている。流す情報の量が多ければ全て知らせられていると満足な気持ちになる。

 だが同じような情報、科学的な詳細を大量に流すわりに、WHAの意思決定プロセスなどはさっぱり分からない。というか分からないように隠されている。だが情報の量だけは多いので、まるで見たことがあるような錯覚に陥ってしまうのだ。

 とにかく今日は日曜日。今日で休日は終了で明日から平日だ。この生活に平日も休日もあるかよと思う。とくに俺の仕事はリモートワークでできることが少ないので尚更だ。

 同じ食事、同じ部屋、数値だけが変わる同じようなニュース。俺は同じ時間を駆け続けているような錯覚に陥りそうになる。だからこそこのスマートフォンのカレンダーは大切な存在だ。

 時間感覚が薄れてくるにつれ、このロックダウンは終わらないという根拠のない陰鬱な確信が肥大化してくる。

 肥大化した確信は心を少しずつつまみ食いしていく。

 俺はネットで「メンタル」と検索した。メンタル相談のサービスもある。だがよく見ると、どの業者も端にWHA認定の印が載っている。調べてみると、この手の業者は現在、WHAの認定なしでは営業できなくなったそうだ。

 つまりこのサービスは。

 WHAの息がかかっているということだ。

 俺は妄想が肥大化しそうになってくる。この終わらない時間、その不安を解消するちための手段、そしてその利用者たる俺たち。それらは全てWHAの監視下にあるという思い込み。

 俺は。

 俺はここにいるけれど。

 俺以外は本当に今も存在しているのか。

 俺だけが取り残されたのではないのか。

 俺だけが繰り返される円環に囚われているのではないのか。

 考えていくだけで次第に余計な不安だけが膨張する。

 この膨張から自分を守るため、俺は何かしたい。

 何かしたい。

「何かしたいんだ!」

 叫んでいる自分に後から気づいた。

 今日は日曜日だ。休日の終わり。明日からまた出勤もない閉じ込められた日常が始まる。

 閉じ込められること、それが日常だ。

 喪失した日常を思いつつ、俺は自室へ勾留される日常なんて現実ではないと言いたくなる。自分にそれを言い聞かせて見え方が変わったらどれだけ楽だろう。現実が見えなくなれば。どれだけ、楽、だろうか。

 危険な思考を敢えて笑う。無理に嗤う。聞く相手もいない独りの空間で声をあげて笑い続ける。

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