第一章 元貴族と小人妖精
――――この世界の成り立ちを知っている者が、どれだけいるだろうか?――――
――――数多ある歴史書、伝記、:::、英雄譚、聖典、魔導書、儀:……これらを解読しても辿り着ける者など居はしまい――――
――――だが――――
――――もし、辿り着けたなら――――
―――――::―:―――::::::――だろう――――
『賢者 アーゲスト・ヨセフ 世界創世より』
…一部解読不可…
第一話 目覚め
「……いつまで、寝てんだ?」
―――――?
「オイッ!!」
――――誰だ?まったく、うるさい――――
「いいのか?いいんだな?」
――――せっかく、気持ちよく寝てるってのに、起こすんじゃあ―――
ゴスッ!!!
「っっっつああああああぁぁぁっ!!!」
突如、側頭部に激痛が走り俺は目が覚めた。目の前には木槌を肩に乗せニヤニヤしている小人妖精が一匹。もとい、一人。
「よぉ、目が覚めたか?スカタン野郎」
「何すんだよ!このアホ!もう少し優しい起こしかたをしろよっ!!」
「ああ?だから木槌にしてやったじゃねぇか。俺のハンマーコレクションの中じゃ、一番優しさに溢れてやがるぜ?」
「別に、頭じゃなくてもいいだろうがっ」
―――まったく、朝からツいてない
この人間が扱うハンマー(工具用のだが)をこよなく愛する大人の靴ほどのサイズの小人。名前はハッグ。
俺が貴族だったときに、いつのまにか家に転がり込んでいた根無し草のはぐれ妖精だ。本人曰く、「俺は故郷を離れ、旅に出たのさ」などと言ってはいるが、まあ、間違いなく迷子だろう。
「腑抜けたツラで寝やがって、これが大貴族ファルツ家の慣れの果てたぁな」
このボサボサ黒髪寝ぼけ野郎が、かつての大貴族ファルツ家の跡取り息子ヴァインだ。年は24歳。
ガキの頃から魔法だけは得意で、なにやら神童とか呼ばれてやがった。
まあ、跡取りといっても、もう家はないんだが。
「…………はぁ……で?なんで起こしたんだよ?」
ヴァインはボサボサの黒髪を掻きながら、ハッグを見据えた。
「お前、今何時だと思ってんだ?約束はどうした?」
ヴァインはふと壁に掛けられた古い時計を見た。時計の針は10時を指している。窓から外の光がうっすらと零れている為、間違いなく昼の10時だ。
「……まだ、10時じゃないか。ギルドとの約束は13時のはずだぞ」
俺はギルドの依頼でフィクスツリーという魔物の生態調査を行っていた。イチジクに似た実を付ける魔物でこれがやたらと美味いらしく、一部の美食家たちから人気のようだ。
だが、その実を採るのは一筋縄ではいかな――――
「ああ、そうだな。だが、それは昨日の13時だな」
ハッグは呆れ顔で、ヴァインに言った。
「え?」
はは、なにを言ってんだ、コイツは。そんなハズないじゃないか。俺は口で否定をしながらも嫌な予感がして、重い身体に気合いを入れて立ち上がり、カーテンを開き窓を開けて階下を覗いた。
――――ザッ、ザッザッ、ザッ――――
「おや?おはよう、ヴァイン」
いつもの変わらない優しくもおおらかな声で少し太めな、もとい包容力の有りげな女性が箒で店の前を掃きながら声をかけてきた。
年の頃は40代だろうか、詳しくは聞いていない。
間違えでもしたら、俺はもう一度、家を無くすかもしれない。
「おはようございます、マレーヌさん」
彼女の名前はマレーヌ。この料亭バーガンディの店主だ。
もとは旦那さんと2人で始めたそうだが、旦那さんが失くなってからは娘のノーチェと切り盛りをしている。
なかなか評判の料亭で、名物の『岩頭牛のタンシチュー』は絶品だ。
俺たち2人は、この料亭の2階の一部屋を間借りしている。
「よっほど、疲れてたんだねぇ」
豪快に笑いながらマレーヌはヴァインに話しかけた。
「はは、ギルドへの提出書類を遅くまでをまとめてましたからね」
「丸1日、寝るなんてねぇ」
……………やってしまった。
どうやら、フィクスツリーの生態調査に没頭しすぎて、大幅に寝過ごしたらしい。やたら身体が重いのは寝すぎたせいか。
「いいのかぁ?」
突如、後ろから声がした。
振り向くと木槌をくるくるっと回転させて宙に投げては、器用にキャッチしているバカ妖精。
「この依頼、貴族の美食家が絡んでるとかで、ギルド長のダンカン直々の依頼じゃなかったっけ?」
――――そうだっ!
「知らねーぜ?『鉄拳のダンカン』を怒らせたら……一週間は胃がメシを受け付けねーかもな」
俺は頭の痛みも、気だるさも一気に忘れ、逆に背筋に悪寒が走った。
「なんで、早く起こさないんだよっっ!!」
「起こしてやったじゃねーかっ!!」
「遅いんだよ!バカ妖精っ!」
「なんだと!この、落ちぶれ貴族がっ!起こしてやっただけでもありがたいと思いやがれっ!!」
―――こうしちゃいられない!今すぐギルドに行かなくては!
ハッグの言ったことは、決して誇張ではなかった。
『鉄拳のダンカン』
この商業都市リンガイルの冒険者ギルド長にして、歴戦の猛者。
ギルド内の噂では、素手でS級ランクの魔物を殴り殺しただの、炎の大魔法を拳圧で掻き消しただの、逆に魔物に間違えられただのとキリがない。
そんな人間をやめたギルド長を、丸1日待たせたなんて……
考えただけで気がおかしくなりそうだ。
ヴァインは急いで愛用の深い緑と灰色が混ざったような色のローブを羽織り部屋を出た。飛び降りるように階段を降りて、バーガンディの店内を通り抜け、入り口を出た。
――――ホントにツいてないっ!
「おもしろそーだから、俺もいくぜ」
2階の部屋の窓からハッグが飛び降りて、ヴァインの肩に着地した。
「すいません!マレーヌさん!俺、ギルドまで行ってきます!」
そのまま、止まることなくヴァインはマレーヌの横を走り抜けた。
「あっ!ちょっと、待ちなっ……て、行っちまったよ。やれやれ、慌てん坊だねぇ……」
マレーヌの言葉がヴァイン達に聞こえることはなく、すでに遠くに過ぎ去った後だった。
――――――商業都市リンガイル
この、世界にある5大陸の中央、ランテール大陸……
王都ロイスダールに次ぐ第2の都市である。高い城壁と運河がこの街を永きに渡って繁栄させてきた。
街の南側で月に1度、開催される大市、通称『バザー』では世界中のあらゆる名品、珍品、ガラクタ、中には正規のルートで売買されない物まで流れているらしい。
その街の南側、旧市街地区中央通りに2人が目指す冒険者ギルドはある。
「――――はぁっ、はあっ、はあっ」
息を切らし、目的地へと倒れ込むように到着した2人。
「この程度でへばるたぁ、軟弱すぎんだろ?お前……」
「――はぁ、はぁ……俺の肩に乗ってるヤツのセリフかよ……」
「昔っから、魔法研究にばっか時間使ってっからだ。ちったぁ身体を動かせや……で、どう思う?」
「……何がだよ?」
「約束をすっぽかしたにしちゃ、静かじゃねぇか?」
「確かに……闘気の高ぶりはおろか、魔力も感じないな」
…………おかしい。ギルド前は初心者や中堅クラスの冒険者達で賑わってはいるけど、これじゃいつもの日常と変わらない。ダンカンが怒ってるんじゃ漏れ出す闘気で蟻を散らすが如く、ギルド前は誰もいなくなはず……代わりにここら一帯があり得ないプレッシャーで覆われているハズだ…………
「……とにかく、入ろう」
ヴァインはゴクリと喉を鳴らせ、意を決して大きく重厚な扉に手をあてた。
…………ガヤガヤ…………ざわざわ…………
「……やっぱ、いつも通りじゃねぇか……」
「そうだな。依頼の報告、昨日じゃなくて今日だったのか?」
ヴァインはギルドから依頼された内容の書かれた羊皮紙を、肩に掛けたバックから取り出し確認した。
――――調査依頼――――
依頼人:ケイマス・ラザフォード
対象:フィクスツリー
内容:生態調査
対象の魔物がつけるという実の確実なる回収方法
期間:6月の20日~30日まで
「この依頼を受けたのは21日、土曜日だったはずだ」
「ああ、かなり特殊な魔物だったから、期間いっぱいまで使う気だったんだ。最終日、30日の13時に完了報告をする約束をダンカンとした」
「だな。……アレを見ろ」
ハッグが視線をやった先にはか大きな置時計と、その上にある曜日計があった。
「……火曜日」
「つまり、今日は7月の1日だ」
―――――やっぱり、ツいてないな
さて、始まりました。
「元貴族は賢者を目指す」
なにぶん、小説は初めてでありまして書き方なども手探りなのですが興味から執筆となりました。
ここで、一度世界観の説明をば……
『時間』
時間の概念は1日は24時間、午前、午後というのも我々の世界と変わりませんね。
『月』
これも我々の世界と同じく1年は12ヶ月で呼び方は下記の様になっています。
1月……ハジャス――命を司る神
2月……イサファ――戦いを司る神
3月……エガト――宇宙を司る神
4月……エ・ルドラ――叡知を司る神
5月……サニード――幸運を司る神
6月……カーリア――力を司る神
7月……クリィト――愛を司る神
8月……バーズ――正義を司る神
9月……ベリル――魂を司る神
10月……イズ・クリプソ――希望を司る神
11月……ン・シス――死を司る神
12月……アトス――調和を司る神
それぞれが古代神の名前を冠しています。
『曜日』
これも一週間は7日と変わりはありません。呼び方は以下の様になっています。
日曜日……ヤ・シュマー――太陽と時の象徴
月曜日……シーン――月と魔の象徴
火曜日……ネル・ガ――火と闇の象徴
水曜日……ナヴー――水と海の象徴
木曜日……マドック――木と天空の象徴
金曜日……イシター――金と血の象徴
土曜日……ア・ダル――土と大地の象徴
こちらは、それぞれが大精霊の名前を冠したものになっています。
これから先、これらが重要になってきます。
まだまだ、私の頭のなかは整理できてはいませんが……
皆様、これからよろしくお願いいたします。