一話 出会い
シリアスな始まりですがこれから明るくなります。(謎の確信)
平和な町『ソニチラ』
王国の近くにある城壁に囲まれた大きな町。
この町は近くにダンジョンがあり、自然にも恵まれているため人が沢山集まる。
当然、冒険者ギルドや商業ギルドもあり、この町は冒険者たちで賑わっている。
一ヵ所例外があるのだが…
ここはこの町の中のひとつのギルド『ソチカ』
猫耳と尻尾のついた赤髪の女の子が、無精髭を生やしたスキンヘッドのごつい男に話しかける。
「ガンクさん、最近新しくできた貴族専用依頼のギルドに冒険者さんが取られてばっかりですよ。確かにあそこは報酬が高くて冒険者にも嬉しいですが、それでは我々のギルドがこのままではつぶれてしまいますよ!」
「うるせぇぇい!そんなことはわかっとるわ!あそこは貴族本人でも簡単にできるような依頼があるんだ。何をしようとこんなギルドに人は来ねぇ!」
ガンクはテーブルを思いっきり叩いた。ガンクは信じたくなかった。
この町一番の大きさのギルドにひとりも冒険者が来なくなったことを…
そのせいで国に納める税も納められず、残り一ヶ月でこのギルドがなくなってしまうことを…
最近、新たにこの町の近くに国を作った王を好かない周辺貴族が、王国に物資が行き届かないようにするために貴族専用の冒険者・商業ギルドを作り、この町に元々あったギルドを潰していっているのだ。
その矛先は当然このギルドにも向いてきた。
変化が見られたのは約一か月前。
まだこのギルドは賑わっていたが、新しくできたギルドのうわさが広まっていった。
この時はまだ冒険者には『貴族の作った変わったギルド』という印象しかなかった。
「お前聞いたか?新しいギルドの話」
「ああ、貴族の作ったギルドだろ?あの富裕層どもが…」
「だが、貴族の作ったギルドだからこそ報酬が良いらしい」
「さらに、受付嬢もかわいいらしい!」
「「「これは行ってみるしかない!」」」
二週間後には、多い時の三分の一にも満たない人数しか来なくなっていた。
もう人が来なくなり、仕事も回ってこず、潰れたギルドも出てきた。
さすがにガンクも危機感を覚えた。
だが、時すでに遅し。
「おい、バーナス!お前、本当にここを辞めちまうのか!」
「ええ、向こうの大きなギルドに勧誘されましてね」
料理長のバーナスは窓の向こう側に見えるギルドを指さす。
その貴族ギルドには冒険者が溢れかえり、その中にはこの間ここで貴族ギルドの話をしていた三人組もいた。
「ここのギルド食堂のオススメはお前の料理なんだぞ!お前が辞めて誰がこの厨房を仕切るんだ!」
ガンクは額に汗が滲み出るほど一生懸命引き留めた。
だが、バーナスは顔色一つ変えず、大きなカバンに布でくるんだ自分の包丁を丁寧にしまった。
「どう言っても私は辞めますので、ギルド長、今までありがとうございました」
そう言うとバーナスはカバンを持って、ギルドを出て行った。
ガンクの言う通り仕切る人のいなくなった厨房からどんどん人はいなくなり、更に受付嬢まで辞めていった。
バーナスと同じようにスカウトされていなくなった者もいるが、別の理由で辞めた者もいる。
「実家の両親が…」
「独り立ちしようかと…」
そんな理由で辞めていった。
それは建前なのか気を使ったの分からないがそう言ったものは全員、貴族のギルドで働いていた。
それがガンクには大きな苦しみとなった。
ガンクは酒におぼれ人に当たるようになり、このギルドの専属冒険者まで出て行かせた。
そして誰一人このギルドには来なくなった。
「すまねぇミィ…ちょっと頭を冷やしてくる」
「気を付けてくださいね」
ガンクは頭を抱えながら、ふらふらとギルドを出て行った。
その姿を心配しながら猫人族のミィは見送っていた。
ギルド長であるガンクは途方に暮れていた。
何かいいアイデアはないのか…
今ギルドにいるカンナは幼馴染だからやってくれているが、解体師も他の従業員も雇えない。
同じく幼馴染のバーナスが出て行ってしまったのは、ガンクにとって本当に心外だった。
「俺たち三人で世界一のギルドを作ろうって言ってたのにな…」
ギルド『ソチカ』はガンクとミィとバーナスの三人で一から作り上げたギルドであり、ガンクにとってはかけがえのない大切な場所だ。
ガンクは交渉、ミィは簿記、バーナスは料理とそれぞれの得意分野を生かし、町一番のギルドまで成長させたのだ。
ガンクはいつの間にか町はずれの川へ来ていた。死神が誘ったのだろうか。
ガンクは一瞬、自殺してしまおうかと思った。
いや駄目だ…酒で頭が回っていないだけだと頭を振る。
「俺が死んだらギルドで待っているミィに申し訳ねぇ…」
ガンクは橋の上で川を眺めていると川縁に何か流れ着いているのを発見した。
布の様に見えたがそれは動物だった。
ふらつきながらガンクは動物に近づき抱き上げた。
(見たことのない生物だ…だが痙攣して意識が無い…)
生物は震えていて衰弱しきっていた。
ガンクは人目も気にせず一目散にギルドへ戻る。
掃き掃除をしていたミィは息を切らしたガンクを見て驚いた。
「ガンクさんお帰りなさ…それなんですか!」
「説明は後だ!戸棚からタオルを持ってこい!」
「はっ、はい!」
ガンクは椅子に座り、弱い魔力で火を出した。
「ガンクさんこれっ!」
ミィが持ってきたタオルでガンクは激しく丁寧に生き物を拭いた。
生き物の震えは止まり、いつの間にかガンクのひざの上で眠っていた。