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(3)私の闇を放つ前に
トウシンはまだ寝ている。
傷だらけのこの人は、私を否定しない。
深い海の底から、自分だけの力で這い上がってきたこの人は、私を否定しない。
私の「助けて」をいつだって見逃さない。
夜更けの山里は本当に静かだ。
世界は時を進めることを躊躇している。
騒がしい太陽を締め出すように、夜はそのとばりを下ろしたままだ。
私はこの人を愛していない。
愛してはいけない。
この人の苦しみを分かち、自分のものにしてしまった。
私には彼の生き方を否定することなんてできない。
彼が抱えてきた憎悪を、闇を、取り囲んで地中深くに埋めてしまえたらいいのに。
子供の頃、夜の鉄塔が怖くて泣いていた。
どこまで逃げてもついてくるあの鉄塔は、いつしか私を踏み潰しにくるような気がしていた。
でも、大人達は私の涙の理由に気づいてくれなかった。
きっと彼なら気づいてくれたろうな。
あの湖ならきっと、私を追い出さずに置いてくれるだろう。
光が届かないところへ私は行かなくてはならない。
私が私の闇を放つ前に。