(1)僕だけが肯定する
『ロックンロールが愛する朝に、パンキッシュドライがすこぶる跳ねる、ねぇこの詩良くない?』と、君が聞く。
「ロックンロールが愛する朝ってなんだよ夜か?」と、僕は答える。
『それじゃただのこじらせ中学生じゃん。オールでライブやりきった朝に決まってんじゃん』と、君は言う。
「決まってねーし。てかここどこだよ」と、僕は言う。
僕らは温泉を目指していたはずだった。
ポニー温泉とかいうわけのわからない風呂屋の前を通り過ぎ、奥入瀬渓流こっちという看板に従い一本道に入ったはずだった。
どうやっても間違えようがない道を、間違えるところはもはや流石と言わざるをえない。
まともに何かを成し遂げようという気がないのだ。
学生ホールでサナルを見つけた時、彼女は逆立ちしながら『蜃気楼!蜃気楼!』と叫んでいた。
僕らのバンドは嫌われていた。
嫌われていたというか、どうでもいいと思われていた。
まぁこちらこそ皆様方よろしくどうぞどうでもいいと思っていたのでおあいこ様なわけだ。
ジャガーにメタルモンスターを繋ぎ、AとGをオールダウンピッキングで弾きながら、動物愛護と戦争反対を交互に叫ぶ僕らは、トレンディではなかったようだ。
『誰よりも平和を歌ってるっつーの』
サナルは不満げだったが、万人に好かれるようなカスバンドにはなりたくなかった僕は、むしろその状況を喜んだ。
僕だけがサナルを肯定している。
その事実が僕を絶頂に連れて行く。
全裸でババロアのプールに飛び込むようなかか、穴という穴にあれをぶち込むような。
サナルは無垢で敏感で泣き虫で怒りん坊だ。
僕は彼女を傷つけては愛し、抱きしめては傷つけた。
僕らは一心同体で、互いにヘドを吐き合いながら相手を求めた。
『トウシンが右って言ったんじゃん』
彼女の中で、とにかく間違いは全て僕のせいにする、ということになっている。
「そうだね確かに右と言ったけどさ、それはポニーを過ぎてだいぶ走ったあとの十字路のことであって、さっきの二股のことじゃねーし」
一応、自分は誤っていないことを伝える。
『1回右って言ったなら次も右でしょ』
ぷりぷりしながらそう言い放つ彼女を、僕だけが肯定する。
「やれやれだ。」