してん、しゅうてん
一発投稿です
鎧を纏った二人は、互いに、貴婦人の構えを取った。剣を振りかぶるように構え、刃が背中に当たりそうなほどに近づける、攻撃に秀でた構えだ。互いの構えを見て、顔を見て、少しだけ口の端に笑みが浮かぶ。攻撃的な構えを取るのは分かっていた、とでも言うような理解の笑み。
青年騎士は女騎士の微笑みを見て、女騎士は青年騎士の理解を読んで。そうでなければならない、と更に笑みを深くした。彼らの距離は歩けば10歩程の間が開いていた。じり、じり、と互いに距離を詰める。スリット越しに見える緋色と闇色の瞳は爛々と動きを見て取り、先手を取るべくに視線を配っている。
8歩。女騎士の足鎧が石床を踏みしめてじじ、と鳴った。
6歩。青年が握る剣の柄に力が籠り、剣の前半分『弱い部分』がわずかにバックプレートを擦る。
4歩に移る瞬間、互いに剣を振り下ろした! 男女の間の懸け橋に成るかの如く、剣身の後ろ半分『強い部分』がクロスする。|鍔迫り合い≪バインド≫に入り、互いに有利な位置を探るために互いの脚が石床を擦り、体の位置を入れ替え、そして女が青年の剣を弾くように力を入れて、互いに下がった。がしゃ、かしゃ、と金属の擦れ合う音が空間に響き、霧散する。剣の基本|鍔迫り合い≪バインド≫にあるのならば、少女はその技巧に勝れ、青年は力で優っている。当然の事だった。男であれば、同年の女に膂力で負けるべき理由は、余程の虚弱体質でなく、鍛錬を怠り果たしでもしなければ存在しない。根本的な生命の違いを、女騎士は技巧にて押し返す。男は力と技でそれを押しつぶさんとする。踏み込みの音が小さく空間を揺らした。
二度、三度の撃剣。金属が打ち鳴らされる音が響くが、それにもかかわらず彼らの剣に刃毀れは一つもなかった。常に新品のように光り輝いていた上に、彼らの剣は尋常ならざる様をしていた。女の剣身は紅く、ガーネットのように光をはじく。男の剣は剣身こそ平凡なる剣だが、刃のないリカッソの箇所には妖精の羽の様な文様が刻まれていた。そして、その剣こそが彼らが彼らである証明。宝石の如き紅き剣の女騎士――宝石騎士・エリザ=アキックス。妖精の羽の剣を携えた騎士・フィーダ=ファルファラ。
騎士立国・『エアフィルト興国』において若年騎士の中でも彼らは果たした『冒険』の内容が良く知られていた。妖精郷の鋼探し、鉱石境の枝折り、海公翁の燕狩をはじめとする大冒険6つに、小冒険がいくつも。華々しい功績と――その陰に隠れたいくつもの挫折。それらを知っているのは、彼と彼女だけだ。わかり合えるのは彼らだけで、だからこそ剣を合わせる。
そして、その剣の音に寄り添うように。彼らの脳裏を冒険の記憶が浮かんでいった。