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REDとパン焼き娘コンテスト  作者: 山田露子 ☆ヴェール小説4巻発売中!
2.ぶっ飛び、おとぎの国レース

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11.好き


「キャットギャングの住処は散らかり放題で、ドレスが猫の毛まみれです」


 太王太后は苛々した様子でドレスを払っている。


「自力で脱出したんですか?」


 REDは気になっていたことを尋ねてみた。――攫われたハニーはビッグが助け出したようだが、女王は彼らの蜂飛行機には同乗していなかったから、別の方法で逃げ出したのだろう。


「おとぎの国の境界に穴が開いたおかげで、わたくしの魔力も戻ったのです。――わたくしが万全の状態ならば、そこらのチンピラにおくれを取るわけがない」


 王様の魔法使いとしての才能は、太王太后譲りなのかもしれない。ひ孫が境界を壊したことで、太王太后はピンチを脱したのだから、なんとも不思議な繋がりだった。


 さらに話しかけようと身を乗り出したREDは、くい、と腕を引かれ、王様の腕の中に閉じ込められていた。――そういえばいつの間にか、王様の瞳は元の青に戻っている。あの金色の瞳も神々しくて素敵だったけれど、やっぱりいつものほうがいいなとREDは考えていた。


 王様が硬い声で告げる。


「RED、ネズミ女王が僕のひいおばあ様じゃなかったら、どうするつもりだったんだ? 安易に約束を交わしたせいで、君は見ず知らずの男と結婚させられていたかもしれない。――大体ね、今日だってこっそり城を抜け出して――」


 お叱りの調子なのに、REDに触れる手つきは優しく、瞳にもすがるような気配があった。


 REDは吸い寄せられるように背伸びをした。王様の肩にそっと手を触れ、小鳥が湖の水面に口を近づけるような慎重さで唇を重ねる。


 話していた王様がピタリと動きを止めた。びっくりした顔をする余裕もないほどに彼は驚き、制止魔法をかけられたかのように真顔で佇んでいた。――王様の青い瞳は目の前の愛しい女性だけを映している。


「好き」


 REDが囁いた。


「RED」


「大好き」


 REDの華奢な手が王様の首の後ろに回り、優しく撫でる。REDは夢見るように王様を見上げていた。王様は甘えきっているネコみたいに力なく、REDを見つめ返した。


 ふたりの顔が自然とまた近づき、もう一度唇にキスを交わす。二度目のキスはREDのほうからしたのか、王様のほうからしたのか、微妙なところだった。


「……あらまぁ、お熱いことで」


 太王太后が呆れたような、それでいて面白いものを見たというような視線でふたりを眺めながら呟きを漏らした。


「よかった! 女王、ご無事で!」


 ハニーのヒロインボイスが響き、ビッグが運転する蜂飛行機がドラゴンの背の上に着陸した。少し遅れてグリーンピースの機体もそれに続く。


 ピンクネズミが蜂飛行機を飛び出し、太王太后のそばに駆け寄った。ハニーはウルウルした瞳で太王太后を見上げている。


「我々の囚われ生活もこれで終わりですよ。お前たちも元の姿に戻してあげますからね」


 太王太后はグリーンピースから魔法の杖を受け取り、人間が持つのにちょうど良いサイズに拡大したあと、それをネズミたちの頭上でひと振りした。


 ――キラキラキラーン!


 光が瞬き、ネズミたちは人の姿に変わった。


「……なんだ、全員人だったのか」


 REDは呟きを漏らした。……まぁ考えてみりゃ、そうか。彼らは初めから二足歩行していたし、流暢に人語を離していた。


 REDは突然異界に閉じ込められて、正常な判断能力を失っていたのだろう。今になってみれば当たり前のことでも、当時はまったく考えが及ばなかった。


 太王太后の魔法により、ハニー、ビッグ、グリーンピースはそれぞれ人の姿を取り戻したのだが、摩訶不思議な現象が起きている。


 ――なぜか全員、男なのだ。


 ひとりはずば抜けて背が高い。精悍な顔立ちで、あれがビッグに違いなかった。年の頃は二十代半ばだろうか。意外にもビッグは男前だった。普通に町にいたら、すごくモテそう。平民の服装なので、貴族の誰かであるとか、王家の誰かであるとか、そういうことはなさそうだ。


 もうひとりはひょろりと痩せた、なで肩の男だった。癖っ毛で、首が長い。垂れ目でいかにも人が良さそう。あれは見たままグリーンピースだろう。グリーンピースもビッグと同じく、二十代半ばに見えた。


 そして問題の残るひとりは、小柄な白髪の老人である。上品な顔立ちをしていて、礼服をきっちりと着込んでいる。上流階級に仕える執事のような感じ。


 ――そういえば王様がさっき太王太后のことを、『五年前、執事と散歩に出たきり、行方不明になっていた』と言っていなかったか? ……てことは、あのおじいちゃんが執事ってこと? そしてええと、人化した者は彼以外にはいないわけだから、つまり……?


「皆さん、今までありがとうございます」


 そう礼を言った執事の声は普通におじいちゃんで、ハニーのキュートボイスとは似ても似つかない。太王太后の場合は声もそのままだったけれど、執事の場合は妖精王に声もチェンジさせられていたようだ。ハニーと執事は声質こそまるで違うのに、イントネーションや話すリズム、緩急がそのままハニーなので、頭が混乱してくる。


 短時間しか関わっていないREDがこのように大混乱なのだから、ビッグとグリーンピースの受けた衝撃はそれ以上だったようだ。


 特にビッグは異性としてハニーに熱を上げていたので、顎が地面に着くんじゃないか? という勢いで口をダルンと開け、目をひん剥いている。


 太王太后が小さく息を吐き、やれやれというように説明を始めた。


「ハニーはわたくしの執事なの。妖精王の悪戯でキュートなメスネズミの姿にされ、声もあんなふうにされてしまって」


「だ! だからって!」


 ビッグは引きつけを起こしそうになりながら、声を裏返して訴えた。


「我々には、ちゃんと事情を説明することもできましたよね? ハニーの正体はおじいちゃんだって!」


「チームで一致団結しようという時に、ヒロイン的なかわい子ちゃんがいると、物事がスムーズに進むのですよ。――現にあなたはハニーの存在を意識して、力仕事を率先して引き受けたり、カッと腹を立てた時に我慢を覚えたりしたでしょう?」


「それは……だけど……」


「ハニーがおじいちゃんと知っていたら、あんなふうに紳士的に振舞えましたか?」


 REDはそれを聞き、出会った時のビッグの態度は散々だったが、あれでも紳士的な振舞いだったのかと感心してしまった。……そりゃあ女王も気を揉むわけだわ。ビッグを調教するのに、ハニーを使ったというわけか。


 ビッグはガクリと膝を折り、廃人一歩手前みたいな状態になっている。それがなんだか可哀想になってきて、REDは彼のほうに歩み寄った。


「なぁビッグ、元気出せよ」


「……この声はREDか?」


 ビッグは顔を上げ、初めて人化したREDの存在を認めた。これまでは女王に気を取られていて、彼の視界に入っていなかったのだ。


 ビッグはふたたびカクンと口を開けた。――やだ、うそぉん、REDって女の子だったの? まじかよ! あんな強いのに?


「可愛い! 赤毛ちゃん!」


 ビッグはREDの顔を熱のこもった瞳で見つめた。――上向きにカールした睫毛に、桃色の頬。パッチリした瞳、品の良い目鼻立ち。ビッグの好みとしては、もうちょっと肉感的な体のほうがいいが、でもREDはREDでめちゃくちゃ可愛いなと、彼は感動に胸を震わせる。


「す、好きだー! 結婚しよう!」


 ビッグがすごい勢いでビヨンと立ち上がり、鼻息荒く飛びかかってこようとしたので、REDは予想外の展開に「ひぃ!」と身を引いた。びっくりしすぎて無防備な状態になっている。――このままビッグに抱きすくめられ、好き勝手いじくり回されるかと思いきや――


 何がどうなって、そうなったのか。


 REDが瞬きひとつするうちに、こちらに急接近していたビッグの体がグシャリと下に落とされた。ビッグはドラゴンのザラザラした背中に頬っぺたをこすりつけ、尻を立てた状態で王様に拘束されている。


 王様はビッグの背に膝を押し当て、彼の腕を背中のほうに捻り上げていた。王様は微かに口角を上げたようなポーカーフェイスを保っていたが、その優美さがかえって死神のように恐ろしいとREDは思った。


「――ねぇ君、もしかして今、僕の婚約者に抱き着こうとした?」


「いえ、あの、抱き着こうとしていません」


「いや、したよね?」


「……あ、はい、実はしました。すみません、もう二度としません」


 ビッグは冷や汗をかき、平坦な口調で詫びを入れた。顔色が真っ青になっている。……なんか分からんが、殺られる! ビッグは上から降ってくる凍えるような殺気に震え上がった。


「女の子に問答無用で飛びつくのは犯罪だから」


「ほんとすみません。つい出来心で」


「つい出来心で、の言い訳ひとつで許してもらえるなら、犯罪者にとっては都合のいい世の中だね」


「すみません。反省してマス」


 ――『王様は怒るとめちゃ怖い』というのが判明した一幕だった。




***




 REDがグリーンピースを見つめると、彼もこちらに気づいた。互いに笑顔になる。


「REDが女の子だったなんて、びっくりしたなぁ」


 グリーンピースの口調はさっぱりしていて気持ちの良いものだった。――ネズミから人に変わったとしても、ふたりが友達なのは変わらない。


 REDもへへ、と笑う。


「グリーンピースは人になっても、見てすぐに分かったよ」


 グリーンピースは両手を広げ、肩をすくめてみせた。


「僕はネズミから人に変わっても、そのまんまだろう? 実体はこのとおり、冴えないコックさ。お城でずっと料理を担当していたんだ」


「いいや、あんたは冴えないコックじゃなくて、超イケてるコックだよ」


 REDは右手を持ち上げ、グリーンピースのほうに近づける。二人はハイタッチを交わし、くすくすと笑い合った。


「グリーンピースは世界一勇敢なコックだ! 私は一緒にレースを戦ったから、知っているよ」


「ありがとう、RED。――今日は百花祭だったね! 城に戻って、パンプキンパイを作ろう」


「やったぁ!」


 REDは飛び上がって喜んだ。


 太王太后がパン! と手を叩いた。


「妖精王の箱庭は効力を失いました。――元々の決まりごとは『勝者のみここから出られる』でしたが、ひ孫が境界を壊したので、全員ここから出られます。さぁ、一斉に魔法を解きましょうか」


「私がやります」


 王様が引き受け、特大の花火を打ち上げた。空に舞い上がったそれは七色に弾け、四方八方に光を降らせた。キャットギャングや荒くれドギーなど、元々人だったものは元の姿に戻る。そうして花火は空の上で一層激しく弾け、ふと気づいた時には、一同は王宮の庭に佇んでいたのだった。



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